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父娘二人の宇宙旅
ピピッピピッピピッ
「ん?アラーム……」
うっすら目を開け、眠りから目覚めたギールガーシュは隣でスピスピと健やかな寝息を立てている娘の寝顔を見つめ満足そうに微笑んだ。
「寝顔はまだまだ子供だなぁ…」
可愛い娘の寝顔はいつまでも眺めていられるが、時計を見て時間を確認すると慌てて娘を起こしにかかる。
「ピコ、ピーコー、起きなさい。お昼寝の時間はもうおしまいだ。着陸の準備をしなければ」
ピコと呼ばれた幼い少女はパチリと目を開け周囲を見回した。
ここが宇宙船の中だという現実を確認するとピコはぷぅと頬をふくらませ父親に向かってかわいらしく抗議をする。
「せっかくお家でおやつを食べるところだったのに」
幸せな夢が途中で終わってしまったことにほんの少し不機嫌そうにしているが、そんな表情をしている事すら可愛くて仕方がない。
ギールガーシュは娘の様子に極上の笑みを浮かべかけたが、自分達が宇宙船で旅の途中——しかも任務を受けての異星への旅だということを思い出し、気持ちを切り替えるために一つだけ咳払いをする。
「ピコ」
「なぁに?とうさま」
「……いや、その、とうさま呼びはよさないかい?パパの事はパパって呼んでいいんだよ?」
「いやね、とうさまったら。ワタシもう5さいになったのよ。パパ、なんてこどもがつかうコトバよ?」
ピコ、5歳は十分子供だよ……もっと言うなら、どれだけ年月がたとうとも、ピコは一生大事な娘に違いない。心の中でそうやんわり否定の言葉を返しながら、ギールガーシュは、はははと乾いた笑いを返すのだった。
「そうか、そうかピコも大きくなったもんなー。もう夜のおトイレもきっと一人で行けるんだろうなー」
「……トイレ?夜の?」
一瞬の空白。
「いやね、パパ、ワタシまだ5さいよ?」
そう言いながら無意識の中で計算された天使の微笑を繰り出す。このあどけない笑顔を目にできるだけでギールガーシュは満足そうだ。
「さて、ピコ。ちきゅに到着する前に、我々の任務と、ミッション遂行の手順を確認しておこう」
「ラジャ」
敬礼を一つするとピコは先程の子どもらしい様子とは打って変わって、大人顔負けの口調で資料に目を通すことなく二人が向かっている星についての情報を話し始めた。
「惑星、グリーンアース、その星に住む人々からは『ちきゅ』と呼ばれ、空気、水、光など環境的諸条件はほぼ我が星と同じという事が前回までの探査で報告されています。今回私たち第4次探査隊の任務は、万が一このグリーンアースに居住することになった場合、この星の人々とコミュニケーションが取れるのかどうか、また生活面における不具合が発生するか否か、主にグリーンアースに住む人の生活様式などの感触を調査することです」
「パーフェクトだ!ピコ・ウエスティン。」
「では、続けて手順について……」
両手を挙げピコをほめた称えるギールガーシュを横目にピコは何事も起きなかったかのように言葉を続けてゆく。
「今回の第4次探査団はスーパーコンピュータビルビルにより選別された20か国へ2人編成のチームごとに調査に向かいます。私たちウエスティンチームは比較的居住する民が静かで接しやすいといわれる『ニポン』という国へ向かうことになっています。このニポンは四方を海に囲まれた島国ですので到着後の他チームとの連携は取りにくいと考えた方がよさそうです。よって今回は私たちのみの単独調査となりますので居住する人々の多いエリアに着陸し効率よく調査を進める予定です。すでに着陸目標は設定済みです」
淀みなく必要な情報はピコの口から語られた。
ブラボー!我が娘ながら超天才!!
しかしここは父親の威厳を見せるべく途中から話を引き継ぐ。
「その通りだ。船が到着したら、翻訳イヤホンと翻訳マイクを準備し、擬態薬を準備。その後、擬態薬を服用する。擬態薬は、我々の姿かたちを変えてしまう。つまりこれを飲んだらお互いがお互いの姿で認識できなくなるので気をつけるように。初回についてはその時目にした最初の生物に擬態するようにプログラムされているので一層注意が必要だ。尚、調査期間は3日間となる」
「ラジャ」
一通り確認が終わるとギールガーシュはにっこりとピコに微笑みかける。
「さぁ、ピコ、とうさまの膝においで。外を見せてあげよう。到着まで少し時間があるからね」
「わーい!」
ピコが目をキラキラさせた途端、
ウィーンウィーンウィーン!
警報の音はけたたましく異常事態を知らせ父娘の時間はあっけなく終了することになった。
チッ!
舌打ち一つするとギールガーシュは
「どうした?203号」
何もない空間に大きな声で問いかけた。
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