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だが、それより先に目をうばわれたものがある。
月の光に照らされた、ふたつの赤い実だ。
店で売っているものにくらべ小ぶりだったが、りんごにしか見えなかった。
「うそだろ?」
思わず声になった。
りんごが熟すのは夏の終わりから秋にかけてのはずだ。4月では早すぎる。
とはいえ、それでも、りんごにしか見えなかった。
しっかり見ようと柵を乗りこえ、顔を近づけると、あまいにおいにくらくらした。
その幻想的なかがやきに目をうばわれた。
――気がつくと、その赤い実をひとつ、もぎ取っていた。
のどが、ごくんと鳴った。
気がつくと口の中につばがたまっていた。
自分でもおどろくほど、食べたくて食べたくてたまらなくなった。
走った後で、のどもかわいている。
かじろうと口を開け、ふと手を止めた。
がんぼう伝説を思い出したのだ。
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