第2話 翔太、空を飛ぶ

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だが、それより先に目をうばわれたものがある。 月の光に照らされた、ふたつの赤い実だ。 店で売っているものにくらべ小ぶりだったが、りんごにしか見えなかった。 「うそだろ?」 思わず声になった。 りんごが熟すのは夏の終わりから秋にかけてのはずだ。4月では早すぎる。 とはいえ、それでも、りんごにしか見えなかった。 しっかり見ようと柵を乗りこえ、顔を近づけると、あまいにおいにくらくらした。 その幻想的なかがやきに目をうばわれた。 ――気がつくと、その赤い実をひとつ、もぎ取っていた。 のどが、ごくんと鳴った。 気がつくと口の中につばがたまっていた。 自分でもおどろくほど、食べたくて食べたくてたまらなくなった。 走った後で、のどもかわいている。 かじろうと口を開け、ふと手を止めた。 がんぼう伝説を思い出したのだ。
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