アレ知らん?

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「――なあ、アレ知らん?」  つい最近の、ウチのオカンが探し物をするときの口ぐせがコレ。五十を過ぎた頃から、オカンは物の名前が出てけえへんことがよくある。 「アレって何よ」 「ほらアレやん! アレアレアレ!」 「だから、〝アレ〟って何やねん!? 〝アレ〟言われても分からんわ!」  ……という感じで、私とオカンの会話はいつも漫才みたいになる。  今日はオカン、一体何を探してるんやろ? 「オカン、何探してるん?」 「だからアレやって! ほら、何やったかな……。輪っかにレンズついてるヤツでな。お母ちゃん、目ぇ悪いからアレないと見えへんねん」 「……それってメガネちゃうん?」 「ああ、それやそれ! メガネや!」  私は思わず()ろてしもた。だってな――。 「ちょっとアンタ、何笑ろてんねん!?」 「だってな……、おもろいねんもん」 「何がおもろいん?」 「オカン、その頭んとこ乗ってるヤツは何? メガネちゃうん?」  オカンは頭に自分の手を持っていって、「あ」って言うた。 「何やぁ、こんなとこにあったんか……。全然気ぃつかんかったわぁ」 「ちゃんと鏡見いや。ホンマ頼むわー」  私は読んでた本のページにまた視線を戻した。  そして、読み始めた矢先――。 「なあ、アレ知らん?」  オカン、今度は何や――!?  もうええわ。チャンチャン♪                         END                   
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