妻は当たり前の日々を焼き付ける様に暮らす

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「探し物はこれかい?」 「ええ、そうよ。ありがとう」 「それにしてもなんで俺に口紅を探せだなんて浮気でも疑っているのか?」 「いいえ、ねえ覚えてる? 初めてデートした日の事」 「・・・」 「そう・・・忘れちゃったのね・・・これは貴方が買ってくれた物なの」 「・・・そ、そうか、忘れていたよ本当にすまない」 私と彼は夫婦だ。 夫は若年性健忘症に罹りまだ30代だ。   俺は口紅を見て無邪気に笑うあどけない表情の妻の目を盗んで偶然探している最中に見つけてしまった診断書を妻に隠れてリビングで開いた。 涙でくしゃくしゃのその紙にまた涙を落とすといつの間にか、まるで何度も経験してると言わんばかりの妻が扉の前で立っていた。 そして妻がそれを見て言う。 「離婚しましょう。貴方が忘れても私は何回でも言うわ。貴方がこの言葉に何も感じなくなった時本当の別れよ」 妻はまるで瞳を焦がす様に憎愛の顔で俺を見ていた。
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