容疑者は二人

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容疑者は二人

 お昼休みの学校で、その事件は起きた。  ポケットにしまっていたノートがなくなったのだ。 「これは……盗まれたんか」 「なんでやねん! アンタのネタ帳なんか誰も盗まへんわ」  流石アタシの親友、素早いツッコミ。  どこかに忘れて来たんじゃないかと言われたが、そんなはずはない。  あのネタ帳はコンパクトサイズだからいつも持ち歩いている。  ポケットにないなら鞄の中かもしれないと探したがどこにも見当たらない。 「やっぱり落としたんやて」 「事件のニオイがする」 「なんでやねん!」  そう言いながら、溝オチを裏手でペチッと叩いてツッコむあたり流石親友。  などと言っている場合ではない。  あのノートには今日考えた新ネタが書かれている。  もしあのネタが他の人に盗まれたりなんてしたら、アタシは数日間へこみ続けると断言できる。  それにしても誰が盗んだのか。  疑わしい人物は二人いる。  放課後、アタシはその容疑者二人に声をかけると、率直にノートについて尋ねた。  予想通り二人とも知らないと答えているが、どちらかが嘘をついているに違いない。  この二人は、アタシと同じくらいクラスで笑いを取っているから、ネタを盗んで困らせようと思っての行動だろう。 「今ならアタシも情けで許したるから正直に言いや」 「だから知らへんって」 「オレも見てすらおらへんし」  折角の武士の情けも効果なし。  これは決定的な証拠を突きつけるしかない。 「アタシのネタ帳の柄ゆうてみ」  二人でハモった「ハゲオッサン」の言葉。  これは予想外だった。  二人が答えを知っているということは、二人による共同の犯行だとドヤ顔で言い放つと「知ってて当然やろ!」と、これまた二人から同じ言葉が返ってきた。 「あんな毎日持ってるんや、クラス皆が知っとるわ」 「んなわけ――」 「吉田、コイツのネタ帳の柄わかるやろ?」  私の言葉を遮り、最後に教室を出ようとした吉田さんに声をかけた容疑者一人。  この期に及んで見苦しい。 「ハゲオッサン」  その言葉を教室に残し、吉田さんは帰っていく。  まさかの展開だ。 「まさか、吉田さんもアンタらの共犯やったなんて……」  二人の「なんでやねん!」のツッコミが入ったとき、教室の扉が開いて親友が姿を現した。  そういえばいつの間にかいなくなってたな、なんて思っていたアタシの目に飛び込んできたのは盗まれたネタ帳。 「な、なんでや……。なんで親友であるアンタがアタシのネタ帳を!」 「落とし物に届けられとったで」  親友の一言で、元々私達だけしかいなかった教室はシーンと静かになり、背後から刺さる元容疑者二人からの視線。 「はかったな!!」  なんでやねんという三人のツッコミが教室に響く。  探しものは見つかったものの、アタシは正座をさせられ、その後三人からの説教を受けた。 「あ! 探しものの行方い、なんて新ネタはどうやろ」 「アンタに反省の二文字はないんか」  呆れる親友と一緒に帰る道の途中、私はネタ帳に新たなネタを書き込んだ。 ─end─
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