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「石野瞳よ。今度、圭吾と結婚することになったわ。見た目は冴えないし、服のセンスは悪いし、運動嫌いでお腹は目立つ」
彼に対する辛辣な言葉が次々に上がる。確かにその通りではあるのだが、何も本人や私を前にしてあげつらうことは無い。彼も苦笑いを浮かべている。
しかし、その女は微笑んだ。
「こんな奴と結婚しようとしていたなんて、きっと貴女も男を見る目があったのね。上辺だけのカッコよさなんかじゃない。本気で自分を愛してくれる人を見抜いたんですもの。生前に会えなかったのが残念だわ。きっと、いい友人になれたと思うから」
気がつけば、私は涙を流していた。
私以外に彼の魅力をきちんと理解してくれる人がいたのだ。不器用で冴えないけれど、真摯に愛してくれるひたむきな想いを受け止めてくれる人が。
「なぁ、亜弥。覚えてるかな? 最期の時、『お前が死んだら俺も死ぬ』って駄々を捏ねて困らせてたら、涙ながらに『幸せになるって約束してよ。じゃないと安心して死ねないでしょ』って俺を叱りつけたこと」
よく覚えている。
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