追憶

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 当時の彼は私の為に生きていると言っても過言では無かった。私が死ねば本気で後追い自殺をしかねないほどに危うかったのだ。  だから命を落とす瞬間まで、私の胸中にあったのは自分の死への恐怖よりも、私の死後、残された彼に対する心配だった。 「こうして何とか約束は果たしながら生きているよ。だから安心してくれ」  彼の言葉に私はようやく理解した。どうして私は親族のところではなく、毎年彼のところに帰ってくるのか。  死ぬ瞬間までではない。死んだ後まで、彼のことが心配だったのだ。 「それからな」  そこで彼は少しだけ言い淀んだが、意を決したように口を開いた。 「ワンピース、似合ってるよ。忘れる訳、無いだろう」  そう言って、彼は確かに私を見た。
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