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今の片山のことを、俺はちゃんと好きだけど、やっぱり。
昔の片山のことを、懐かしく思ったりする。
もともと、うるさくはしゃぎ倒すようなタイプではなかったけれど、明るくて、鮮やかで、とても眩しかった彼女のことを。
午後の業務もなんやかんやと忙しくて、結局何も決まらないまま定時を過ぎてしまった。
もういっか、なんでも……
色々考えるのは嫌いじゃないけど、実際のところ片山はどこでも気にしないし、いつもそれなりに楽しそうにしている。にこにこと笑いながら食べる彼女を見ているのが好きで、結局、彼女の機嫌さえ良ければ俺だってどこだって構わない。
腕時計を確認する。片山の仕事終わりが少し遅いから、待ち合わせまでは、まだ少しある、と思って残務を片付けていたら、ギリギリになってしまった。
お疲れ様です、と残業中の同僚らに声をかけて席を立つ。
「城崎、帰んの?」
「待ち合わせ」
「あー、そっかそっか」
お疲れーと言う西山に軽く手を上げながら、早足で職場を後にする。
まだ微かに明るさを残した、真夏の夜のはじめ。
目を上げると、群青色の空に、思ったよりずっと鮮やかな色をした月が見えた。
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