3/3
前へ
/885ページ
次へ
困ったなぁ、と最愛の彼女の頭を撫でる。 困ったねぇ、と。 「じゃ、今度から、片山が美味しそうにスイーツ食べてるの、見てるよ」 「スイーツ食べにいかなくてもいいんだよ?」 「俺、コーヒーは好きだから、大丈夫」 もっとわがままを言ってくれていい。叶えられる望みが、たくさんあると嬉しい。 そう思うのに、彼女から要求されることはほとんどなくて、求めるのは俺ばかりだ。 会いたいのも、部屋に来て欲しいのも、こうして抱きしめていたいのも、全部俺の希望で。 彼女は本当は何が好きなんだろうと、いつも考えている。 「じゃあ、今度は、城崎くんの行きたいところに、私も一緒に行くから!」 なにやら必死、という感じで片山が言う。私に合わせて、なんて、全然主張しない片山が。 じゃあ、ってなんだろ。行きたいところなんか何にも言わないくせに、と苦笑しながら、気に病みそうだから一応、提案する。 「したら、フェスとか行こうか」 「フェス?」 「野外フェス。行ったことある?」 「ない」 「暑いけど、今度一緒に」 片山が嬉しそうに頷く。いわゆる「彼女」と言う存在に、自分に合わせてもらうと言うのが俺にとっても新鮮で、なんだか気恥ずかしかった。 「片山の行きたいところにも、一緒に行きたいけどな」 そう、取り敢えずは言ってみる。でも、片山は自分の希望を考えたり伝えたりするのがひどく下手で、だからあんまり期待してなかったんだけど。
/885ページ

最初のコメントを投稿しよう!

448人が本棚に入れています
本棚に追加