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「ねぇ、覚えてる?」
「あなた達が私にした仕打ちのことを」
掘り返したタイムカプセルの中には、その一文で始まる手紙が入っていた。
奇羅醨(きらり)は中学時代の友人と、7年ほど前に埋めたタイムカプセルを掘り起こしに来た。
内定が決まり、就職活動を終えた奇羅醨は同じく内定が決まり、中学時代から仲良くしている寿梨越兎(じゅりえっと)と久しぶりに遊ぶことにしたのである。もう一人仲の良いマヤにも連絡したが、就活が忙しいため、会えないとのことだった。
最近3人はよく就活の話をしていた。どんな仕事に就きたいか、今どんな企業から内定をもらっているか、などを話していた。
奇羅醨と寿梨越兎が、集まって何をするかを電話で決めている際に、昔埋めたタイムカプセルの話題になったため、掘り起こしにいくことにしたのだ。
学校の裏山へ赴き、埋めた場所へと向かう。2人は埋めた場所を覚えていなかったが、マヤに聞くと場所を即答してくれた。さすがマヤだ、と2人は思った。
そして、土を掘り起こすと
お菓子の缶が出てきた。
土まみれでボロボロだったが、箱の形は保っていた。
蓋を開けると、ピッという電子音が響いた。
蓋の裏には電子基盤が張り付いていた。
こんなのつけた覚えないけどな、そんなことを思いながら、箱の中を物色すると、
タイムカプセルの中には謎の手紙が入っていた。
そして、以下の文言が綴られていたのである。
「ねぇ、覚えてる?あなた達が私にした仕打ちのことを」
それを見て、寿梨越兎は思いだしたかのように口を開いた
「仕打ちって、この手紙書いたのマヤじゃない?」
マヤは中学時代いじめられていたのである。
そして、その原因を意図的に作ったのは奇羅醨と寿梨越兎である。
電話でタイムカプセルの話をしている際に、マヤのことも話題に上がった。
靴を隠して素足で家まで帰らせたり、どのグループにも入れないように、根も葉もない噂(他校の男子と二股関係にあるなど)を流し、徹底的にマヤを孤立させた。
それがきっかけでマヤは学年中の生徒からいじめられるようになった。
しかし、高校に推薦で行く気だった奇羅醨と寿梨越兎は内申のため、マヤをいじめることを途中で止めた。
むしろ、マヤの味方につくようにしたのである。
マヤは、いじめられるきっかけが奇羅醨と寿梨越兎にあるとは知らないため、その二人に心を開いた。
それまで、いじめを黙認していた教師も、それが解決方向の向かい出した途端に、でしゃばり始め、奇羅醨と寿梨越兎を評価して、2人の推薦合格へむけ全力でサポートをしてくれた。
結果として、奇羅醨と寿梨越兎は推薦で希望する高校に行くことができた。
そして卒業シーズンになり、奇羅醨と寿梨越兎、そしてマヤの3人は同じタイムカプセルに思い出の品やタイムカプセルを埋めることにした。マヤからの申し出だった。いじめられていた原因も知らずに滑稽だと、2人は思った。
タイムカプセルを埋める前に、2人はマヤに対して、どんな手紙を書いたのか質問した。その際にマヤは
「2人への感謝の気持ちだよ」
と答えた。
そのことを思い出した2人は、いじめの原因である張本人に向かって感謝の気持ちを綴るいじめられっ子の手紙を拝むために、タイムカプセルを掘り返しにやってきたのである。マヤは中学卒業後も2人に対して頻繁に連絡してきていた。
恩人との関係を継続しようとしていたのである。そんなマヤの様子を2人は滑稽に感じ、楽しんで連絡を返していた。
そうした中、見つかったこの手紙。
奇羅醨と寿梨越兎は恐る恐る、続きを読み始めた。
「まさか気づいていないとでも思ってたの?あなた達がいじめの主犯だということは中学時代から分かってたわ。でも、もういいの。過去のことだし。許してあげる」
奇羅醨と寿梨越兎は、バレてしまっていたことにはショックを受けたが、許されているということを知り、少し安堵した。「チョロい奴」二人の頭の中にはその言葉が思い浮かんだ。しかし、続きを読むと、その言葉はすぐに彼方へ消えた。
「今、あなた達がこの手紙を読んでいなければの話だけどね」
「これを読んでいるということは、いじめられている私が、いじめの原因である張本人へ感謝の気持ちを綴る手紙を掘り起こして、読みに来たってことじゃない?それって、全く反省してないってことよね?それを許すほど私は優しくないわ。」
「その手紙はもうすでに処分しました。あなたたちが来る前に私がもう既に一回掘り起こしているのよ。そして装置もセットしておいたわ。このタイムカプセルの蓋を開けると同時に、あなたたちが内定もらっている会社へ、いじめをしていたことを告発するメールを一斉送信するようになってるから」
2日後、2人の元に内定取り消しのメールが来たことは言うまでもない。
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