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「ねぇ、覚えてる?」
覚えてない! ないない!
「覚えてるでしょ?」
じわじわと、近寄ってくる。俺はすぐに、壁際に追い詰められてしまった。
「覚えてるくせに」
覚えていると答えたら、どうなるのかを知っている。
「雪山で、あーんなに熱烈に告白してくれたくせに」
知ってる、覚えてる。急な吹雪の中、何て綺麗なひとなんだ、って思ったよ。
雪女なんだけど、いいの? って言われて、うん、って答えたんだけど。
彼女に先導されて、無事下山できた、数日後。
病院の看護師として、彼女は俺の近くに来てくれた。
あのときはすごく歳上だったからって、見た目を俺に揃えてきた、のだと思う。
あのときの、って確かめていいのか、ずっと悩んでいた。
プロポーズの指輪だって、ちょっと雪の模様入りにしたし、結婚式用のドレスもそんな感じの予約をした。
もしも、はっきりと、俺から言ってしまえば、昔話みたいに俺は始末されてしまうんじゃないだろうか。
雪女の物語。
もしも彼女の方から告白させたら、あのセオリーを崩せるんじゃないだろうか。
明日は結婚式。
彼女の目的が分からなくて、俺は、拗ねた顔をする彼女に、約束の言葉を口に出せない。
出さないまま、ずっと行こう。できればずっと。
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