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「お父様、私、本当のお母様達に会ってみたいわ」
「嗚呼エコー、それだけはどうしても出来ないのだよ」
お父様の瑞々しい手が、私の額をそっと撫でてくださる。
活動限界時間を過ぎた私の身体は、どこもかしこもパサパサと生気がない。
こんなにも美しい見目をしたお父様から産まれているのに、お父様は、今もなお美しいのに、私はお父様より先に老い、そして逝く。
「私、役に立てたかしら、お父様」
「エコー、お前は自分の役割をきっちり果たしたじゃないか。お前達が尽力してくれるからこそ、我々はこうやって暮らせている」
「そうなら、良いのだけど」
作られた私たちは、どうしても従来の人間よりも寿命が限られているらしい。
クローンのみが生きた時代もあった、だがクローンだけでは新しい発見はなかなか現れなかったのが事実。
「父がもっと、多面的な人間であったなら、悲しきクローンたちは功績を上げる事が出来たのかもしれないが」
「お父様、ご自分を責めないで。お父様が生きてくださっていたから、私達、生まれる事が出来たのよ。お父様の力が無ければ、何も生まれなかったわ」
限られた遺伝子情報から、人を生み出すことは至難の業だ。
それを成し遂げたお父様を、どうして蔑ろにできようか。
人類が滅びた世界で、生き残ったたった一人の人間たる「父」は、自分の遺伝子を引き継いで生まれた私達一人一人を、こんなにも慈しんでくれるというのに。
「お父様、私、こんなにも死にたくないと思っているのに、死んでしまうしかないのね。お父様のように、私がもっと長く生きられる体なら、お父様を悲しませずに済んだ?」
「そうだねエコー、私は、父はこんなにも悲しい。血を継いだお前たちが、なすすべなく死の腕に絡めとられていくことを、見ていることしか出来ないなんて」
眉尻を下げて、父は嘆く。そんな顔をさせたいわけでは無いのに。
もっとたくさん、お話がしたい。だって最期なんだもの。
「ねえ、お父様、これが最期なのだから、どうか教えて、原初のお母さまたちの事」
ずっと教えてくれなかった、私たちのお母さまの事、教えて?
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