シャボン玉

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 尚太は部屋に戻る。自室は高校を卒業したきり、特段手を加えていない。そのため、少しばかり人を招くには躊躇する仕様だ。汚い、というよりは幼い。それでもめんどくさがって尚太は部屋に手を加えない。でも、そう、ほんの少しだけ変えたくない理由がある。尚太はそのことに思い当たって、あまり見ない本棚の下の段を探る。硬いざらついた感触。尚太の高校の卒業アルバムだ。尚太はそのページをめくる。クラスの写真、ここには用はない。あの子はここに載っていないからだ。  西日がきつい放課後。自転車がパンクしてしまい、尚太は汗を流しながら自転車を押していた。尚太の通学路は河川敷をひたすらまっすぐに進む。川の照り返しが夏場は特に眩しい。しかし、この時間帯はむしろ揺らぐ光に物悲しさを覚える。河川敷に一人女生徒が座っている。尚太はクラスメイトのその子の名前を呼ぶ。 「ここで何してるの?」 「あ、竹内くん」  女生徒は立ち上がってからお尻をはたいた。こちらを振り返り、尚太の方へ歩いてくる。尚太もあわてて自転車にスタンドをたてて、歩み寄る。女生徒は笑顔で手元の物を持ち上げる。 「シャボン玉?」 「さっき、スーパーのレジ前で見つけて、つい」 「好きなの?」 「いや、べつに。さすがに幼いかな」 「変わってるね」  彼女はなにも言わずにシャボン玉を吹いた。
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