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「それは、竹内さんの初恋?」
園崎さんは尚太の話を止める。
「え、いや、どうでしょう」
「それは確信犯だね、思い出に浸るだけなら一人でしなよ」
そう言うと園崎さんは肩をすくめた。
「園崎さんタバコ変えました?」
「え、なに私のポイント稼ごうって?」
「いや、めんどくさいです」
「変えたってか、戻したかな。前に吸ってたの」
園崎は目を細めて煙を追った。尚太の会社が入っているフロアは角に喫煙所がある。尚太はもう吸わないが、なんとなくそこに足を運ぶ。園崎さんには受動喫煙で誤魔化して禁煙できてないね、とからかわれたことがある。
「その子とは?」
「まともに話したの、そのときだけですよ」
「なにそれ、なんの話だったの?」
「さあ」
「さあって」
「園崎さん、そのタバコいかにも濃そうです。体に良くない気がしますけど」
「私はね、もういいの。純一も小学校入ったし」
「それで?」
「自由ってこと」
帰りの電車は少し混雑していて、尚太は座ることができなかった。篠田さんは一人残業をしていく様子だった。年の功というわけでもないけれど、篠田さんは真面目に働きすぎだと思う。そういうのは、自分で区切りをつけていくもので、誰かにいい道筋を教えてもらえるものではない、と思う。気づかなければつぶれてしまうこともあるかもしれない。難しい話だな、と自分で思考を止めた。そういえばシャボン玉もそういう話だったな。
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