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探しものを頼まれた。猫又が、しっぽの影をなくしたらしい。せっかくたくさん生やしたのに、と、憤慨中だ。
対価に、三丁目のパン屋さんの焼き立てパンを所望する。猫又は、影が見つかったらね、と、答えて、残っているしっぽで地面をはたきまわした。パステル三毛柄が、埃で薄くなるのもお構いなしだ。
さて、この街には水路が張り巡らされている。
水路を泳ぐ小魚たちに、猫又のしっぽの特徴を伝えて噂を集める。
空を行き交う小鳥たちは、猫又のしっぽの影には興味がない。今回は手伝ってくれなさそうだ。
さて、しばらくして、二丁目の公園でしっぽが泣いているという目撃情報が入った。公園脇の水路にすむ小魚からの情報だから、確かだろう。依頼主に告げると、慌ててしっぽを迎えに行った。
翌日、猫又がしっぽを振り回して現れた。影もしっかりとくっついて、ぶんぶんと地面を回っている。
「あぁ、影は見つかったんだね、よかった。今日は対価を持ってきてくれたのか。ありがとう」
「座って寝ていれば済むんだから、探偵なんて楽なものね」
猫又は、獲得に苦労した大人気焼き立てパンを、差し出して文句を言うが、水槽から出られない身の上としては仕方ないのだ。
猫又のように街を自由に闊歩できず、水路横の窓辺から他のひとびとに託すしか、金魚にはできない。
ふうん、と猫又は舌なめずりしそうな目で応じる。
「おいおい、恩人を味見するつもりかい?」
「そんなことしない。こっちこそありがとね、しっぽと影が泣いて泣いて干からびてしまうところだった」
ところで、と猫又は、自分のぶんのパンを食べながら言う。
「探偵助手は、必要じゃない?」
「いや、大した報酬があるわけでもないし、ひとは雇えないよ」
「なんだか、もうちょっと恩返ししてみようかと思ったの」
金魚の身の上としては、あちこち歩ける猫又の手は、借りられるとありがたい。
パンのかけらを水槽に落としてもらいながら、考える。
「そうだな、では、依頼があったときに、気が向いたら手伝ってください」
「ふふ」
猫又はしっぽを揺らして、水槽を見下ろす。
本当に、本当に食べるつもりじゃないだろうね?
探偵は少しばかり心配になりながらも、猫又と小さな約束を交わしたのだった。
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