フランケンシュタインの嘘

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レオンがロクサーヌの家に着くと、まず店の扉を開けた。 こじんまりとした店の中には多種多様、大小様々な鍵がならんでいた。カウンターの奥にロクサーヌはいた。夏季休暇に入っていたから家の手伝いをしているのだろう。 「いらっしゃいませ」 ロクサーヌの愛想のいい声がした。 「こんにちは」 レオンは緊張しながら言った。 「あら、レオンじゃない」 ロクサーヌはニッコリと笑ってレオンを出迎えてくれた。彼女の表情を見て、レオンは少しだけ安心できた。迷惑ではなさそうだ。 しかし、レオンの軍服姿を見ると、ロクサーヌは表情を曇らせた。苦笑いと言っていいかもしれない。 レオンはロクサーヌの態度の変化に怖くなった。ちっぽけな人間が太陽に挑まなくてはいけない。その恐怖ははかりしれない。少しの変化も見逃せない。しかし、これは人生を賭けた戦いだった。十八年間、こんなにも心を燃やして焦がれ続けたことはなかった。決着をつけるなら今しかなかった。 「ロ、ロクサーヌ」 口の中がカラカラだった。 「何かしら?」 「君に渡したいものがあるんだ」 「えっと、何を?」 「こ、これを読んで欲しいんだ」 レオンは握りしめていた手紙をロクサーヌに渡す。手が震えて、手紙を落としそうになる。お腹に力を入れてなんとか震えをなんとか抑えていた。 ロクサーヌは手紙を受け取ると、また苦笑いを浮かべた。 「あはは、君もかぁ」 「君もって?」 ロクサーヌは手紙を見ながら言った。 「今日ね、朝から軍服を来た男の子がいっぱいくるの。レオンで十人目。みんな私に贈り物を持ってくるの。花とか宝石とか指輪とか」 「そ、そうなんだ」 「うん。みんな明日出兵するからって。最後に君に伝えたいことがあるんだっていって」 ロクサーヌは手紙をじっと見ていた。レオンは何も言えなかった。自分と同じような人がいて先を越されていたのだ。もし、もう誰かの告白を受け止めていたらと思うと後悔が胸の中に広がっていった。 「それって・・・・・・」 「そう、レオンの想像通りだよ。みんな告白していくの。君が好きだったとか、愛してるとか、帰ってきたら結婚してほしいとか」 「そ、そうなんだ」 「全部断ってやったわよ」 ロクサーヌはつまらなそうに言った。 「どうして?」 思わずレオンは言ってしまった。すると、ロクサーヌは大きくため息をついて手紙をカウンターに置いた。 「ねぇ、レオン、考えてもみてよ。帰ってこれるかどうかもわからないのに、好きとか愛してるとか結婚してほしいとか無責任にも程があると思わない? 出兵する記念に私に告白しているようなものでしょう? そんなのあんまりよ。誰かに背中を押してもらわないと言い出せない愛なんて愛じゃないわ。溢れ出してどうしようもないから訳のわからないことしちゃうのが愛でしょ? 狂ってるのと一緒なのが愛なのに、出兵する『から』愛の告白を『する』なんて論理的すぎるわよ。そんな論理的な愛じゃ私より優れた論理的な愛にであったり、狂ったように惹かれる愛に出会ったらあっという間に用済みになっちゃうわよ。そんなの嫌。ねぇ、レオン。これってわがままだと思う?」 正直に言ってわからなかった。恋焦がれてわけわからない気持ちになったことは確かにあった。でもレオンは恋の穴に落ちながらも、ロクサーヌを見ているだけだった。どうしょうもない衝動に駆られてロクサーヌを自分のものにしたいと思ったこともなければ、狂ったように体が動くことも確かになかった。 「あ、いや、そんなことはないと思う」 ロクサーヌはため息をついた。 「だから、あなたの気持ちは受け取れない」 ロクサーヌは手紙を開けもしないでレオンに突き返してきた。 「で、でも、俺の気持ちを知ってもらいたいんだ。俺、ずっと君のこと・・・・・・」 「やめて」 「でも」 「私あなたのこと好きじゃないの」 「え?」 「タイプじゃないの。あなたってブサイクなんだもの。あなたじゃ私は恋に落ちることができないの。だって毎朝あなたの顔をみるたびに笑っていたら恋に落ちる前に穴に気がついて避けちゃうもの」 「・・・・・・」 「だから帰って。手紙もいらない」 ロクサーヌはカウンターから出てくるとレオンに手紙を握らせた。レオンが棒立ちになってしまっていたから、背中をぐいぐいと押して店の外に追い出した。しばらくの間、鍵屋の前で立ち尽くしていると、レオンと同じように軍服を来た若い男が何人か店の中に入っていった。店から出てくる男はみんな老人のように老け込んで背中を丸めながら店から出ていった。レオンは気がつくと自分の家の前にいて、気がつくと自分の部屋のベッドに横になっていた。
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