近しき訪問者

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近しき訪問者

「相変わらず、でかいな」  大通りから外れ、レンガ造りの塀が続く細い道を振り返り、感心を通り越してあきれたような声で綴木泰雅(つづきたいが)は呟いた。  切れ長の瞳と高い鼻梁、弧を描いた薄めの唇、整ってはいるが、どこかクールな印象を受ける顔立ちをしていた。  やっと、門が見えた。  赤茶色の前髪を掻き上げて、ホッと息をつく。  消炭色(けしずみいろ)の鉄の門は、来るものを拒むかのように高くそびえ立っていた。  百八十センチ近い長身の泰雅だが、背伸びをしても、ジャンプをしても、高い塀と重厚な扉に閉ざされた屋敷の中を覗き見ることは出来ない。  門の取っ手に手をかけて力を入れる。すると、ガラッガラァと重そうな鈍い音を立てて扉が開いた。中へ入り扉を閉める。  ここの(あるじ)は、ぱなしを嫌う。後閉めをしてこないと怒るのだ。  門は電動式で家の中でも操作できるのだが、勝手に入ってくる罰だといって何度か走らされた。屋敷に着くまでも距離があるから往復したくない。  勝手に入ってくるなといっても、門が開いてしまうのだから仕方ないと思うのだが……  本来なら、主に連絡を取らなければ屋敷に入れないが、彼にとってはこれが当たり前になっている。  幾種類もの樹木が立ち並ぶアプローチを抜けると、平屋の日本家屋が見えてきた。広大な敷地にはそぐわないこじんまりとした造り。  以前の屋敷も本邸も知っている泰雅には小さく見える。   それでも一般の家屋から比べればかなりの広さで、使用している材質も最高級品だ。新築されてまだ十年にも満たない。まだ新しい色を保っている白木の引き戸を開ける。  ここには本家の嫡男が住んでいた。
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