近しき訪問者

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 綴木財閥グループ。  銀行をはじめ金融関連会社を中心に、多角的にいくつもの事業を傘下におさめる日本でも有数の企業体だ。  綴木羽琉矢はその頂点に君臨する次期後継者だった。  御曹司として本邸で使用人たちに傅かれ、会社でも後継者として敏腕をふるい、世界を飛び回っていてもおかしくはないはずなのだが、実際は別邸であるこの屋敷で一人、仕事をしていた。 「垣下に会ったの?」  羽琉矢の言葉は丁寧だ。  外見通りの優しげな語り口はずっと変わらない。事と次第によっては豹変することもあるが、それは滅多にあるものではない。  社会に出ると童顔であることは不利になることも多い。子供だと侮って見られることもあるからだ。しかし、それも逆手にとれば武器となる。  顔も言葉遣いも見るもの次第では、魅力的に映ることも充分にわかっていた。それを利用することも。外に出ればの話だが。 「ああ、近くを通ったから寄ったんだよ」  泰雅は時々自社ビルに顔を出す。羽琉矢の元で仕事をすることは決まっているため、顔つなぎという意味合いもあった。 「ふーん。大袈裟だね。毎日のように声を聞かせているのに」  羽琉矢の態度は素っ気ない。特に気にする風でもなく、コーヒーを口に運ぶ。  その姿は、優雅そのものだった。  
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