近しき訪問者

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 綴木グループの代表として、いくつかの会社を任されている羽琉矢は、出社する代わりに自宅からメールや電話、オンラインで指示を出している。  会社に足を運ぶのは年に数度、両手で事足りるくらいだった。    垣下は彼の秘書だ。  代表が不在のため、各会社の社長への指示は垣下が行っている。実質的には彼が代表のようなもので、秘書の範疇を超えていた。 「年度末だし、忙しいみたいだったぜ。決算を抱えている会社もあるんじゃないのか?」 「それはしょうがない。毎年のことだからね。僕がいなくても会社はちゃんと回っていくから、気にすることもないと思うけど」 「お前なあ。総責任者なんだから、自覚を持てよな。いくら垣下さんが優秀だとはいっても、彼はお前の秘書であって、何でもかんでも押し付けるのは酷なんじゃないのか?」    泰雅の口調が説教モードになってきた。垣下から散々愚痴を聞かされたか、泣き言を言われたか、両方かもしれない。羽琉矢は心の中で嘆息する。 「それに代表不在となると、よからぬことを考えているやつもいるかもしれないし?」  何の根拠もなく言った泰雅の軽口に、羽琉矢は顔を上げると物静かな瞳で彼を見据えた。 「聞きようによっては、ずいぶんと物騒な話だけど。それ、誰情報?」  羽琉矢の柔らかな物言いとは裏腹の眼の奥の鋭さに、泰雅はたじろいでしまった。 「いや。悪い、言い過ぎた。誰がとではなくて、俺が単に思っただけで……ちょっとした冗談だったんだ。ごめん」  無意識に出てしまった言葉の意味の大きさに、泰雅の方が狼狽した。軽く受け流してくれると思ったのだ。 「そう」  羽琉矢は短く返事を返すと、何やら思案気に頬杖をついた。
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