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決行の日は以前から翔がきっちり決めていた。
それは翔の弟妹の親子遠足の日。
楠本家は両親共働きで、幼い弟妹は土曜日も保育園がある。
が、チビ達はいなくても父はともかく母は“この日だけは私の休日”と、趣味の料理や溜まった家事の処理などで、殆ど自宅を出ることはなく。
翔も、基本的に隔週で土曜日も通常登校、生徒会その他部活動は毎週土曜日も通常登校になっているし、一人で自宅にいられるなんて日は滅多にない。
そんな状況の中、その日は以前から両親揃って二人にくっついてバス旅行に出かけるという話をしていて。
しかも。なんと翔までも一日休日で。
自分のベッドで思いっきり成親を抱く!
という、予てからの目標をいざ実行する為に、こんなに好都合な日はない、というもの。
だから。
何度も成親には“この日だけは絶対!”と予定を入れさせなかったし、前日から鼻息を荒くしてその日を待ちわびていたのだ。
「しょーさん、怖い」
ラインで“今から行きます”と成親からメッセージが入った瞬間から、玄関で待機していた翔は、扉が閉まると同時にその愛しい体を抱きしめていて。
せめて靴を脱がせて、と翔の腕を振りほどいた成親が、くふくふと笑いながら言った。
「もお、俺帰ろっかな」
「なんで!」
間髪入れず、翔が成親の腕を掴む。
「だってさー、目、血走ってるよ? やる気満々過ぎて、引くわー」
「えー……そんな、か?」
「そんなです」
やっと翔の腕の中から逃れた成親が、勝手知ったるといった足取りでリビングへと向かう。
「そっちじゃなくて、部屋、行こ」
「行かない」
食い気味に断られ、翔が眉を顰めた。
「いいから、しょーさんちょっと、落ち着こ?」
「…………」
「わかってるし。しょーさんがナニしたいのかも、ちゃーんとわかってるってば」
成親も当然、そのつもりでいるのは確かだけど。
リビングのソファに座る。
ここに遊びに来た時は、いつもこの大きなソファにゴロンと横になり、小さい陸や羽美を抱っこして遊んでやる。
自分には姉しかいないから、小さい子供が可愛くて仕方ないのだ。
勿論双子のおチビ達も、成親が大好きで。
いつだって成親がここに来た時は、二人がよってたかってじゃれてくる。
でも、今日は一人。
手持ち無沙汰にスマホを取り出した。
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