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【1】rose quartz
この状況は、かなりの拷問だと思う。
楠本翔、十六歳。つまり健康で健全な高校二年生である。
「翔くん、も、とっとと一緒にお風呂入っちゃってー。その間にご飯、ちゃちゃっと作っとくからー」
と、恋人の母親にバスルームに押しやられた瞬間、脱衣所で脱力した。
その上更に、
「しょーさん? 入っていいよ。俺、もうお湯ん中だから」
なんて誘いの言葉が中から聴こえてきて。
なんだって、自分の一番好きなヤツと、その親公認で一緒に風呂、入んなきゃいけないんだ?
「……まだ、ちゅーしかしてねーのに……」
実際のトコ、一緒にお風呂なんて今までに何度も入っている。
湯舟であったまってる矢崎成親が、翔の隣に越してきたのは三年前。
翔がまだ中学生だった当時。
仲良くなってここの家に入り浸るようになってからは、成親の親がいつだって“も、いっぺんに入っちゃって”と彼が先に入っているお風呂に翔を押しやるから、こんな風に一緒にお風呂なんて状況は何度もあった。
あったさ、そりゃ、何回も。入ったさ、いつだって、そりゃ。
翔は服を脱ぎながら、むきーっと頭を抱えた。
でも、それは。
まだその時は、成親は翔の“恋人”ではなくて。
ただの野球少年とその彼に勉強を教えてあげる隣の一個上のお兄ちゃん、という関係だったから。
理性の鎧は実年齢よりはしっかり持っていると自負しているから、変に意識しないでいられたけれど。
「お邪魔、しまーす」
目を閉じて、バスルームの扉を開ける。
だって、うっかり可愛い素肌なんて目にしたら、自制が利かなくなる可能性だって、無きにしも非ず。
「どおぞー」
なのに、成親の何も考えてないほわほわした声が、返ってくる。
そっと中に入り、手探りでシャワーヘッドに手を伸ばす。
「しょーさん、何で目、瞑ってんのさ?」
くふくふと笑いながら言ってるから。
何も考えてない、なんてわけじゃ、ないらしい。
多分、こっちの心情なんて絶対わかっている。
「そんなんしてたら何も、見えなくない?」
「見えなくていい」
「見えなかったら、シャンプーとリンスとボディソープって、わかんなくない? うち、かーちゃんが全部同じボトルに揃えてるよ?」
くそー、なんとかデザインって目の不自由な人用にそゆのわかるようにしてあんだろーが。
と、翔が内心独り言ちても、実際のトコ、矢崎家には目の不自由な方はいらっしゃらないわけで。
「それに、目、瞑ってたら俺のこと、見えねーじゃん」
この、成親の言葉で翔は思わず目を開けてしまう。
案の定、くふくふふざけた笑い顔して、浴槽の縁に腕を組んで寄りかかりながら翔を見ていて。
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