傘をさせない男

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傘をさせない男

 とある田舎の昼下がり、ふたりの男子大学生が駄弁りながら自転車を押して坂道をのぼっていると、雨が降ってきた。 「うわ、最悪! 傘持ってきてよかった……」  男にしては襟足の長い髪を金髪に染めた青年は、自転車を止めるとリュックから折りたたみ傘を出して広げ、肩にひっかける。  黒髪の青年も自転車を止めると、彼はリュックから黒い雨合羽を出して着込んだ。 「カイト、お前また合羽かよ。冬はともかく、今は夏だぞ? 蒸れて気持ち悪くねーの?」 「しょうがないだろ。傘はなんか、さしたくないんだからさ」  カイトと呼ばれた黒髪の青年は、ムスッとしながらフードのボタンを閉めた。さっそく蒸れて暑いのか、それとも雨なのか、カイトの前髪は湿って、ひたいにぺったりと張り付いている。 「なんかってなんだよ。前は傘使ってたろ」  金髪の青年、ヒロトは小馬鹿にしたように鼻で笑う。それが不快だったのか、カイトは更にムスッとした顔になる。 「前は前。今は今。こんなところでくっちゃべってても仕方ないし、とりあえず俺の家行こう。家に着いたら、俺が傘をさせなくなった理由話してやるよ」 「へぇ、そりゃ楽しみだ」  カイトは茶化すように言うヒロトをひと睨みすると、駆け足で坂をのぼった。 「あ、おい、待てよ! おっとと……」  カイトの後を追おうと走ると、ちょうど吹いてきた風に傘を持って行かれそうになる。ヒロトは傘を片手に、自転車を押しながらカイトと後を追った。  カイトの家に着くと、ふたりは玄関前に自転車を止める。カイトの家はベランダの真下にちょっとした空間と玄関がある。1階の一部がくぼみ、そこが玄関になっている、と言えば伝わるだろうか。  カイトは脱いだ雨合羽を自転車のハンドルに引っ掛け、洗濯バサミで止めると、ポケットから家の鍵を出して玄関に差し込んだ。 「ただいま」 「おじゃましまーす」  ふたりが家に入ると、猫の鳴き声が聞こえた。あくび混じりの、退屈そうな鳴き声だ。 「相変わらず姿見せないな」  ヒロトは靴を脱ぎながら廊下を覗き込む。くもりガラスがはめられたドアと階段が見えるだけで、猫の姿は見当たらない。きっとくもりガラスの向こうにいるのだろうが、ドアに近づくだけで、猫は姿を隠してしまうだろう。 「甘えん坊だけど、人見知りだからな」  カイトは苦笑しながら言うと、リュックをおろす。
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