傘をさせない男

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「先に俺の部屋行っててくれよ。軽く汗流してから行くからさ。あとこれ頼むわ」 「合羽なんか着てるからだろ」  ヒロトは文句を言いながらリュックを受け取ると、2階に上がっていった。ヒロトがドアを開ける音を聞きながら、カイトはくもりガラスのドアを開ける。 「みゃあぉ」  小さな黒猫が愛くるしく鳴きながら、カイトの足にすり寄ってくる。カイトはだらしのない笑みを浮かべ、黒猫を目線の高さまで抱き上げた。 「ルナ、いい子にしてたか? 今友達が来てるんだ。アイツが帰ったらいっぱい遊んでやるからな」  カイトはルナを軽く抱きしめると、リビングの隅にたたまれている洗濯物の中から自分のものを見つけ出し、それを持って浴室へ向かった。  汗を流したカイトは、ふたり分の麦茶とせんべいでいっぱいの菓子受けを持って自室に入る。 「やっと来たか」  ヒロトは我が物顔でカイトのテレビゲームをしていた。彼の自由すぎる行動に苦笑しながら、そっとコンセントを引き抜いた。 「あ、今いいところだったのに!」 「自分ちに同じゲームあるくせに。ほれ、麦茶とせんべい」 「またせんべいかよ」 「この前お盆で親戚からもらったんだと。ま、田舎だからな」  そう言いながら、ふたりともせんべいをかじり、麦茶を飲む。 「んで、お前が傘ささない理由ってなんだよ?」 「はは、せっかちだな。そうだな、あれは2年前の冬だった……」
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