バス停

1/1
前へ
/6ページ
次へ

バス停

  数年後の梅雨時、社会人になったヒロトは家に帰ろうとバス停へ向かう。途中、頬に冷たいものが当たった。空を見ると鉛色の雲で覆われていた。  カバンを漁るも、目当てのものは見つからない。 「やべ、折りたたみ傘忘れた!」  幸いコンビニの近くだったので、急いでコンビニに駆け込み、ビニール傘を購入した。外に出ると雨足は先程よりも強くなっていた。  ビニール傘をさしながら、再びバス停へ向かう。  バス停には先客がいた。先客の男は土砂降りだというのに、傘をさしていない。それに夏だというのに、紺色のカンカン帽に紺色のマフラー、紺色のコートを着込んでいる。 (なんだ、コイツ……)  不審に思いながらも、隣に並ぶ。  横目で背の高い紺色の男をチラリと見ると、男は前をじーっと向いている。青みがかった瞳は異様に大きく、ビー玉のようだ。 (あれ、そういえば前に誰かから、こんな男がいたって……)  思い出そうとするも、バスが来て思考を中断させられた。  バスはふたりの前で停車すると、間の抜けた音を立てながら、ドアを開けた。 「このバスは死者の国には行けないようだ……」 「は?」  振り返ると、男は寂しげな顔をして去って行った……。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加