4. 群れる蝶

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 母子感染の有無を調べる過程で偶然分かったことなんだけどね、と、岡ノ谷さんが彼の説明を補足した。  感染したら妊娠しなくなる。  赤ちゃんができないのはもちろん悲しいし、大変なことだとは思う。だけどなんだか、変な感じがする。 「感染した人が子どもを産んで、HIVみたいに母子感染した方が、ウィルスには都合がいいんじゃないんですか?」  そう聞いた私に、深瀬さんは初めて、にやりと笑った。 「君はなかなか頭が良いね」  こんな状況でも、褒められるとちょっと嬉しい気持ちになる。でも、続いた深瀬さんの話は、浮上しかけた私の心を沈めるほど、重かった。   「僕は、ポイズンバタフライは人為的に創られたウィルスだと思っている。だからそこには、感染拡大というウィルスの目的とは別に、それを創造した誰かの目的が存在するはずなんだ」 「ちょっと……よく分かりません」 「つまり、ポイズンバタフライウィルスは世界人口抑制のために、誰かがーー」 「深瀬君!」  前のめりになって話していた彼の袖を、岡ノ谷さんが引いた。 「その話、二條さんには関係ないから」  鋭い口調に、周りのテーブルからの視線が集まる。急に息苦しくなって、私はうつむいた。 「あの、私……ごめんなさい。今、世界のこととか……考えられないです」  自分のことだけでいっぱいいっぱい。恥ずかしいけど、それが正直な現状。キャパオーバーを告白した私に、深瀬さんが短く「ごめん」と謝った。 「それでいいの、大丈夫よ。お願いだから二條さんは、自分のことだけ考えて」  岡ノ谷さんは真面目な顔でそう言い、暗い雰囲気を散らすみたいに手をぱたぱた振った。 「あんまり無視され続けるもんだから、裏側に何があるんだろうって、つい余計なこと考えちゃうのよね」  きっと二人は今日までに、いろんな経験をしてきたんだろう。深瀬さんが、吸っていない煙草の煙を吐くみたいに、顔を横向けて長い息を吐いた。
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