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Poison butterfly
「大好きだよ」
最後だと自分に言い聞かせて、つぶやいた。
もう二度と言えない。伝えられない。そう思ってから、気がつく。
私、遠藤に「好き」って言ったこと、一回もなかったな……
告白された時はほんとにびっくりして嬉しくて、今でも自分が遠藤の彼女だなんて、信じられないくらい。
優しくてかっこよくて、大好きな人。
だけど。
もう、お別れしないといけない。
指先で、自分の唇に触れる。こうやって、一回だけキスした遠藤の唇を、内緒で何度も、思い出してきたけど。
これで、最後。
そう思ったら胸がギュッと痛くなって、苦しくて、もう枯れたはずの涙があふれてきた。
汚い涙。誰にも触れさせられない、毒入りの涙。
手も口も、目も。私の体は髪の先まで全部、毒に侵されてる。撒き散らしたら、みんなを、遠藤を、汚してしまう。
そんなの絶対、だめだから。
「お別れ、しないと……」
こんなことになるなら、もっとちゃんと、たくさん「好き」って言っておけばよかった。毎日でも、うるさいくらいに。
もう遅い。そんなことわかってるけど。
せめて一回だけでも、ちゃんと遠藤の目を見て、言いたかったな。
好きだよ、大好きだよ。
こうやって、心の中で想い続けることも、もうやめなきゃいけない。許されない。
だって、一番バレちゃいけない相手は、私の中にいるんだから。
心に、ふたをして。
静かに、ひっそりと、一人で生きていかなきゃいけないんだ。
ごくんと唾を飲み込む。涙混じりでしょっぱい味のする、汚い私の、決意。
「もう好きじゃないよ……ごめんね」
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