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秘すれば花13
「ここが薫の部屋か、思ったより広いな」
アパートは鳳のホテルとフラワーサワキの間にある。直帰していいと言われて二人で帰ってきた。いや、薫は片付けを師匠にしてもらうわけにいかないと反発したのだが、今日はもう仕事にならないだろうと帰された。
沢木に「明日は休みだが明後日は昼からでいいので、使い物になるようにしておいてくれ」と言われた。島崎は「善処します」と返して、薫は顔から火が出るほど恥ずかしかった。
二階建てのアパートの二階、建物は古いがリノベーションしてあり、ワンDKの造りは独り暮らしには十分だ。
「花を生けるのに場所が必要で、ダイニングキッチンも使っています。だから大して料理も出来なくて……って、あー、あちこち見ないで下さいっ」
部屋は整理されてはいるが、花の本や花器で一杯だ。
「いやー。こんなところでチームのカレンダー見るとは。でもまだ八月じゃないけど?」
塁が壁に掛かったユニフォーム姿の自分を見てにやにやしている。
「八月が好きなんです!」
カレンダーに立ちふさがるようにして手を広げる。
「俺じゃなくて?」
「……だから、島崎さん意地悪いです」
「ごめん。薫が可愛すぎるから。──もう我慢出来ない。抱いてもいい?」
壁を背にしていては逃げようもない。
「え、あの、いきなりですか?」
「準備も長くかかるし……、いやか?」
入院中にネットで調べた塁は、経験のない薫に出来るだけ負担のないやり方で抱きたい。
「いやじゃない……です。僕のこと全部知って下さい」
そう言って薫の方から抱きついた。
家に来る途中、ドラッグストアに寄ってコンドームや潤滑剤を買おうとした塁を、薫が服のそでを引いて留めた。
『買わなくても……大丈夫です』
『大丈夫じゃない、ちゃんとつけた方がいい』
地元で顔を知られていることは気になるが、それよりも体の方が心配だ。やり方を調べると、中に直接出すとよくないと書いてあった。しばし押し問答があり、意を決して薫が言った。
『大丈夫です。家に買ってありますから!』
『え、自分でしてるの?』
驚く塁に、真っ赤になったまま首を振る。
『し、しようと思って買ったけど、出来なくて……』
ほっとして笑顔を向ける。
『よかった、俺が最初から準備して、薫のことトロトロにしようと思ってたから』
『な、何を勉強したんですかっ!』
『ネットとゲイビデオとBLかな』
『BL……』
『読んだことない?じゃ覚えたばっかの甘い言葉、いっぱい言ってあげるね』
『島崎さん、キャラ変わってます』
『好きな子の前じゃ、男はみんな変態だ』
それも覚えたてだろうか。
『僕だって男ですよ』
そう言うと「大歓迎」と島崎は手を握った。
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