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顔ナシ伝説
★人物★
黛 理々(32)メルク出版社の記者
黛 幸恵(60)理々の母
落合喜助(享年84)理々の母方の祖父
磐田剛(50)メルク出版社の雑誌編集長
佐伯達郎(55)草地利村の住人
須貝知己(25)草地利村の駐在所員
屋暮未来(25)草地利小学校の先生
加地智恵子(70)謎の草地利診察所・医師
草地利役場の窓口担当者
○黛家実家・リビング(夜)
アルバムを広げてめくる黛理々(32)。
台所で皿を洗う黛幸恵(60)。
理々「お母さん、お爺ちゃんの写真みんな変
よね。この写真の人も、お爺ちゃんでしょ
幸恵「この写真って、どれよ。ここからじゃ、
分からないわよ」
理々、アルバムから写真を剥がし取り、
台所の幸恵に掲げる。
理々「これよ」
理々、幸恵に写真を見せる。写真は、
戦後まもなくの白黒写真。子供2人に、
顔のぶれた落合喜助(享年84)と女性
の写真。
幸恵「ああ、その写真ね。そう。顔がぶれて
るのがお爺ちゃんよ。写真のお爺ちゃんっ
て、必ず、顔がぶれたり下向いたりして、
絶対に顔が写らないの。お爺ちゃん、『顔
がない』とか何とか言ってたわ」
理々「…顔がない?」
○メルク出版社・編集部・中
デスクで仕事をする理々の姿。窓側の
デスクに、磐田剛(50)が座っている。
磐田「黛! 次回の記事は、夏らしい話題で
行け!」
理々「…夏ですか?」
磐田「夏だ! 花火だとか、海だとか…、ホ
ラーだとかな…。急ぎだ、今、選べ!」
理々、少し考え、思いついたように、
理々「ホラー! ホラーでお願いします!」
○草地利村・私道
山道を車が走る。木々に囲まれた民家
の前で車が停まる。理々が出てくる。
○民家の玄関先
玄関前に理々。玄関を開け佐伯達郎(55)
が出てくる。理々と佐伯、少し話した
後、理々が実家で見ていた写真を、佐
伯に差し出す。
佐伯「このご家族がこの家に住んでいた?」
理々「ええ、そうです」
佐伯「それが、実は、私も最近、夫婦で東京
から越してきたばかりで。この家を、見つ
けたときも空家状態で、前に誰が住んでい
たか、さっぱりなんですよ」
理々「では、『顔がない』という言葉に、心
当たりはありませんか?」
佐伯「顔がない…? あ、もしかして…。こ
の近くにあるお地蔵さんですが、顔なし地
蔵って呼ばれているらしいんですよ。何で
も、村の人は、前を通りかかるときは、必
ず、そのお地蔵さんを拝むとか」
理々「そのお地蔵さんは、どちらに?」
○山道
理々、ヒールでふらつき歩いている。
先の方に、小さな地蔵堂と、座り込ん
で拝んでいる須貝知己(25)が見える。
○地蔵堂前
須貝、理々に気づいて、立ち上がる。
須貝、理々のヒールの足元を見て、
須貝「道に迷われました?」
理々「いえ」
須貝「何故、こんな辺鄙なところに」
理々「こちらのお地蔵さんに会いに来ました
須貝「…え?」
須貝、いぶかしげな顔をして、
須貝「なんで?」
理々「このお地蔵さんは、必ず拝まなければ
ならないと聞いて」
須貝「その通りですよ。僕の場合は、お供え
物もしています」
理々「何故ですか?」
須貝「駐在所の前任者から、絶対に毎日、お
供え物をしろと…、キツく言われまして」
理々「どうして?」
須貝「そうしないと、顔が無くなるからと」
理々「顔が無くなる…」
須貝「顔が無くなるって何でしょうねえ…。
前任者も、その前任者からそう言われてい
たようで」
理々「村の他の人も、知ってるんですか?」
須貝「ええ。この村には、知らない人は居ま
せんよ」
○草地利小学校・前
校庭で、体育の授業を受ける子供達。
それを覗く理々。ジャージ姿の屋暮未
来(25)がやってくる。
未来「どうなさいました?」
理々「少し、お話うかがええますか?」
未来「何でしょう!?」
理々「顔なし地蔵の話です」
未来「え…」
理々「何でも、拝まないと顔が無くなるとか
未来、困ったような顔をして、
未来「子供たちが怖がるから、あまり言うな
と言われているんですが…。昔、地蔵の前
で転んだ子供が、その1週間後に、顔が無
くなってしまったという言い伝えがあって
生徒「先生ー!」
生徒の集団の中から、声がする。
未来「ごめんなさい。行かないと」
未来、生徒の方に駆けていく。
○役所・中
理々、役所の窓口担当者に写真を見せ
るが、担当者は首を横にふる。
○民家・玄関先(夕方)
理々、玄関先で住人と話をしている。
写真を見せる。住人、横に首をふる。
○山道(夜)
理々、おぼつかない足つき。スマホの
明りで、行く先を照らしながら歩く。
理々「あ~。田舎の夜なめてた~!」
スマホの明りが、行く先の地蔵堂を照
らす。理々、何かにつまずき、
理々「ひゃっ!」
斜面から滑り落ちる。
理々「きゃーーーー!」
○山林・斜面下(夜)
理々、どこかに着地する。スマホの明
りで周囲と照らすと、山林の中。立ち
上がろうとすると、
理々「痛いっ」
理々の手が、足首を押さえる。
座り込む理々、苦しそうな顔。
理々「痛い…」
理々、スマホで、119番をタップす
る。しばらくすると、通話状態になる。
119番の声「はい、こちら119番です! 救
急ですか? 火事ですか?」
理々「(苦しそうに)救急です…」
理々は、そういうと意識が薄れゆく。
○回想・地蔵堂
須貝と理々が話す。須貝がその場を離
れてから、理々、その場を離れる。
理々の声「(私、拝まなかった…)」
○山林(夜)
理々、意識を失う。
119番の声「どうしました? 大丈夫ですか!
○草地利診察所・中(朝)
部屋の唯一病床に、理々が寝ている。
近くに加地智恵子(70)。理々、目が覚め、
おもむろに身を起こす。智恵子、
智恵子「目が覚めたようね」
理々「(戸惑って)私…、どうしてここに…
智恵子「あなた、自分の車を放置したまま居
なくなったでしょ。どこに居るかすぐに分
かったわ」
理々「地蔵堂…」
智恵子「そう。あそこの斜面危ないのよ」
理々「私、拝まなかった…」
智恵子「あー、それ関係ないっ! 顔がなく
なるって話でしょう」
理々「え?」
智恵子「あそこの斜面は、昔から危険なのよ。
昔、あそこから落ちた子供が居て、その子
供が生まれつき顔が薄い子だったそうで。
そのせいで、地蔵の呪いで顔が無くなった
んだって、周りからカラかわれたそうよ。
それが、どう転んだのか、尾ひれついて、
顔なし地蔵の伝説になっちゃって」
理々「え…。そのことを何で村の人達に、教
えてあげないんですか」
智恵子「それがねえ。その伝説が出来てから、
斜面から落ちる子供が居なくなったのよ。
お地蔵さんを怖がって誰も近づかなくなっ
ちゃって」
智恵子、いたずらっぽく笑う。
智恵子「で、ちょうどいいから、私達お年寄
りの間で、このまま伝説を残しておこうっ
て話になったのよ。これ内緒ね」
理々「なるほど、そういうこと…。あ!」
理々、ポケットから写真を取り出し、
智恵子に差し出す。
理々「でも、私の祖父、写真に、顔が写らな
くなっちゃったんです! この村に住んで
いました」
智恵子、声を上げて笑う。理々、ポカ
ンとする。
智恵子「その斜面から落ちた子だけど、キス
ケ君といったかな?」
理々「キスケ…。あ! お爺ちゃんの名前!
智恵子「そのキスケ君は、顔がないっていじ
められたから、自分の顔のことが、嫌いに
なっちゃったそうよ。それで、自分の顔が
写った写真を軒並み破り捨てていたって話
理々と智恵子、しばらく考え込んだ後、
顔を見合わせて、一瞬、無言になる。
理々がプッと噴出すと、二人で声を上
げて笑いだす。
おわり
(昔、シナリオセンターの通信でお勉強してたときに書いた脚本を、そのまんま掲載しています♪)
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