お疲れ様の花束

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木曜日にロビーで待ち合わせをして倫也に車で迎えにきてもらい、ロッカーの荷物や、机の荷物など、全てを持ち帰った。 そして金曜日、今日は倫也の帰宅が20時頃なので、仕事も終わりだし、夕食を作って待ってるね、と倫子は倫也を送り出していた。 15時半過ぎに部長から呼ばれて、机の前に立ち、営業部を見渡した。 「はい!皆さん、ちょっと注目。明日から花上さんが産休に入ります。花上さん、これは営業部一同からです。8ヶ月で申請が通っていたのに、こちらの事情で9ヶ月まで引き延ばして申し訳ありませんでしたね。ありがとうございました。元気な赤ちゃんを産んで戻って来て下さいね。」 そう言った部長が恥ずかしそうに背中に回した手を前に出した。 手のひらサイズの向日葵と薄いピンクのカーネーション、小さなピンクの花の花束を差し出された。 「うわぁ…綺麗。ありがとうございます。」 部長にお礼を言い受け取ると、皆んながいる方向へ向けてお辞儀を数回した。 「ありがとうございます。ありがとうございます。」 また帰って来れたらいいな、そう思って拍手されながら少し涙目になっていた。 「はい!じゃあ、仕事戻って。花上さん、お疲れ様。見送れないけど気を付けて帰ってね。」 「はい。わざわざありがとうございました。」 部長にお礼を言い、席に戻って帰り支度を始めていると、数分後に沢木が顔を出した。 その手にピンクのガーベラと薄いピンクのアストロメリアと霞草の花束を持っていて、息を切らしながらそれを倫子の前に差し出した。 「えっ?沢木さん…から?」 驚いた顔を向けると、間に合って良かったぁと、沢木が額の汗を手で拭っていた。 「俺にも感謝の気持ち位ある。補佐が続かなくて部長が花上ならって連れて来た時も、どうせ続かないと思ってた。暴言も自分で分かってるし、時々、八つ当たりもあると分かってた。」 「………分かってるなら止めれば良いと思うんですけど?」 花束を胸に抱いて上目遣いでチラッと見て言うと、罰が悪そうにしながらも開き直って続けた。 「忙しいとどうしようもない時があるんだよ。あの頃は若かったんだよ、俺も。それ…俺と楓から。外で約束してて楓の注文が煩くてさ、間に会って良かった。そんで伝言、そこのファームって喫茶店にいるから最後の日にお茶でもどうかなって。店に倫也が後で迎えに来るから心配しないで良いって。」 笑顔の沢木に言われて、その言葉を聞いた瞬間、倫子も満面の笑顔になっていた。
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