お疲れ様の花束

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「行きます!!」 「即答だな。」 くっくっ…と笑われたが、宇佐美のお誘いで倫也のお迎えなら即答以外、倫子の中に返事はない。 仕事をしている皆んなを出入り口の所で振り返り数秒見つめてから、ゆっくりと頭を下げた。 「産まれたら見せに来いよ!」 「お疲れ様でした!絶対、赤ちゃん見に行きます!」 「戻ってくるの待ってます!」 営業に行こうとした男性が口火を切ると、補佐の女性にも言われて小さくはい、と返事をしてから、一礼して営業部を出た。 辞める訳じゃないのに何だかもう戻れない様な気持ちになってしまった。 泣くのを我慢して、エレベーターの中で一人でこっそりと涙を拭いて、会社を出てすぐ近くの喫茶店「ファーム」へ向かう。 窓際に宇佐美の姿を見つけて、手を振ると宇佐美も気付いて手を振り返してくれた。 席に着くと、直ぐに宇佐美は労いの言葉を倫子にかける。 「お疲れ様。9ヵ月までよく頑張ったわね。そのお腹で急なトラブルにも良く対応した。鍛えた甲斐があったわ。これからは赤ちゃんの事だけ考えたらいいからね。復帰はちゃんと出来る。ここに前例がいるから大丈夫。」 頭を撫でられて思わず涙が流れた。 「どうして…復帰出来ないかもって…考えているの分かったんですか?」 涙を拭きながら聞くと、宇佐美は笑う。 「それはぁ、私もそうだったから。」 「宇佐美さんも?」 「そうよ?私は転職したばかりだし、余計に切られても不思議じゃないと思ったし、でも30だしね?次のチャンスがあるとは限らない。絶対子供、とは言わないけど産めるチャンスがあるなら産みたい。妊活もしてた訳だしね。でも、だからって仕事を辞めたい訳じゃない。就職して何年も頑張って来て認められて転職して、全部捨てる勇気、凄いと思うしそういう女性も尊敬する。だけど私は捨てる前に行けるとこまで頑張りたかった。花上もあの頃の私みたいに不安に思ってるだろうなって…。」 「不安です。補佐の仕事は私じゃなくてもいいし…。」 俯いて倫子が言うと、宇佐美はため息を吐いてメニューを倫子の前に出した。 「取り敢えず食べよ。奢る。ねぇ、花上。赤ちゃんも仕事も欲しいって欲張っているのだから、同じ場所にいたいはこの際、置いておこう。」 「同じ場所はダメですか?」 「ダメじゃない。けど現実問題、子供がいて残業出来る?きついよ。時々、可愛い桃香も悪魔に見える。」 泣きそうになった倫子に宇佐美が微笑みを向けた。
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