イメージと現実の差

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イメージと現実の差

障碍施設と言うもののなかで「地域移行型入所施設」と言葉できくと、どのようなイメージを抱くのだろうか? 私は、面接で「弊社は地域移行型の施設です。」と言われた際に、「ある程度普通に出来る人がいる。(最低でも意思疎通は取れる。)」というイメージを抱いていた。 面接の際、「ここは地域移行型の施設だから、グループホームに行かれたり、系列のカフェに働きに行く人もいるんですよ。」と言われた。地域移行というのが何かははっきりと理解していなかったが、その言葉から、地域社会に移行するための訓練所みたいなものか。と認識したのを未だに覚えている。更生施設。という言い方をするらしいのだが、この言い方には疑問を抱いている。彼ら、彼女らは、更生しなけらばならないほどの問題があるんですかね。といったものだ。これは、勤め始めてから今まで変わらない思いでもあるが、入社1年くらいは、変われる人はいるんだろうか?と、同時に思っていた。 それくらい、衝撃だったのだ。 面接が終わった際、施設見学をしていないことを施設長と採用担当が思いだし、慌てて挨拶回りにつれて行かれた。 前職で接客をしていてこんなことを言うのもあれだが、私自身は笑顔を作るのは心底下手だし、人見知りが激しい。せめてこころの準備をさせて欲しいと思いながら、必死に表情筋を動かして笑顔を作り所属する男女混合棟に立ち入った際、一番最初に目に入ったのは、服を脱いで上半身裸になっている女性と、全裸で階段に座っている女性だった。 「あい(仮名)ちゃん、また脱いじゃってるの? あいちゃん脱いでるわよ!」 「今着せたばっかですよ……。」 採用担当に言われて職員が服を着せる。着せて数秒で床に服が叩きつけられた。どうも、彼女は、その服で遊んでいるようだ。だが、この方は地域移行ができるのだろうか? どうやって? そんな疑問が浮かんだ。服を着せている際も「あーー!!」と叫ぶ声だけで、日本語を話す事はない。単語にもならない。赤ちゃんの泣き声のようだと失礼だとは思うのだが、そんな印象を受けた。 服を脱いでいる人は気にしないように言われつつ、全体に私という知らない人を紹介していく。目があまり合わないのだが、意識がこちらに向いている事だけははっきりと感じた。同時に、少し離れた距離で観察するような仕草をする方がいた為、警戒されているのだろう。とも感じた。 なるべくにこやかに挨拶をしても、ほとんど挨拶は返ってこなかった。日本語で挨拶を返してくれる方が数名。二十人近くいる所属棟(仮にここではAとする。)で、挨拶を返してくれるのが数名しかいないのだ。大半は「うー。」「べー。」と、発語があるか単語は口にしているが理解しているかがわからない方が大半。発語がなくとも挨拶を理解できる人も数名いるが、どちらにしろ意思疎通は難しいだろう。というのが第一印象。警戒されているからか、それとも普段からなのか判別できなかったが、歓迎されているかが不安だった。 その現状を見ながら、地域移行型とは? と疑問が浮かんだのは仕方がないようにも思う。 他の施設での勤務経験がないから分からないのだが、弊社の実情は軽度の知的・精神障碍の方は少なく、中・重度の方が多く入所している為、一生過ごす方の方が多いのだ。個人的には、これは弊社の施設に関しての問題だといいな。とは思う。地域移行といって入所施設からグループホームなどに移行できないまま一生を終える方が多くいるというのが現実だとしたら、少し思うところがある。 面接で言われた外に働きに行っている人。というのは、はっきり意思疎通ができなんでもできる女の人だった。男性棟にも同様の方がいるとのこと。3名くらいしかいないが。と、利用者さんの名前と特徴の説明がてら伝えられ、その方はなんでここにいるんだろう?と、首をかしげる。はきはきして、笑顔で話してくれる女性(ここでは、仮に皆川さんとする。)は、初対面の私にたいしても笑顔だった。 はっきりと目を合わせ、話しをする。今日は仕事が休みなんだと嬉しそうに話す彼女は、知的、精神ともに軽度ではあるが、言動の分別が一切つかない人だった。 笑顔で私に挨拶をしながら、他の利用者さんが私に近づいてきたら死ねと言う。注意した採用担当にたいしても「だって嫌いだから。」と言って去っていくような人だった。 ここが、もうすぐ自分の過ごす日常になるのだ。 この施設で働くのだ。 出来る出来ない以前に、自分が怒らないかどうかが心配だった。 私自身そこそこ厳しい家で育ったこともあるが、暴言を受け流すことがいいとは思えない。 それを、理解できないから。という理由で、軽く注意して終わる職場で働けるかどうか。 クビにならないかが心配だな。と、挨拶回りをしながら、各棟の現状を見ながらため息が出た。 だが、今もいきなりクビにならないかは心配しているが、この仕事は面白いので辞めようとは思わない。この心配はいずれ記載するが、倫理委員に似た立場になったからこそ生じているものだ。現在、アドバイザー相手に喧嘩を売った立場なので、ボーナスカットがこわい。喧嘩を売った理由が社内調査の実名公表に関するものなので、私は悪くないはずだ。長くいれば色々起きる。今がそのときなのだろう。 少し話が逸れたが、試用期間を終えある利用者さんの担当になり2年。人は劇的に変わるという現実に触れた。それをきっかけに、この仕事は人の人生を考えるものなのだ。と、はっきりいえるし、様々な方と関わるなかで、言語が通じないのは外国と同じ感覚だと思えるようになった。ジェスチャーと気合いと観察で、どうとでもなる。「通じない」は、こちらがつくった壁でしかないのだろう。と、思っている。 それにしても、地域社会で生活が困難な方を入所して、地域社会で生活できるようにしろ。というのは、ニートを取っ捕まえて親から金銭的に自立して働け。ほら働け。と、強要しているようなものだと思うので、地域が合わせていく仕組みにすればいいんじゃないか。なんて、最近は特に思ってしまう。
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