働きはじめました

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働きはじめました

6時起床。遅くとも21時消灯。 食事は1時間以内。入浴は10人程を、毎日大浴場で1時間以内。 午前は仕事と称した活動。午後は個々にやりたい(できそうな)活動。 午後喫茶時の飲料は、基本お茶かコーヒー。 嗜好品購入は週末のみ。イベントは月に数回。 全体での外出、外泊イベントが年1回。 面会や外泊は事前予約制。電話や手紙は個人やり取り無し。 ここは、刑務所か? 時間に支配されている世界。 学校より厳しいが、余暇時間にはレクリエーションがあるわけでもなく、延々とテレビが音楽がかかるだけ。リビングでただだらだら過ごす姿は、退屈をもて余したご隠居のようで、つまらないだろうな。と、思ってしまうのだが、彼ら、彼女らには当たり前の日常。職員にも当たり前で、利用者さんが穏やかならそれでよし。ということらしい。 私なら発狂する。しかし、未経験他業種からの転職組の新人には発言権も説得力も、味方もいない。 仕事を教えてくれた先輩は、ひたすら働く仕事人間だった。常になにかをしていたが、毎日笑いながらぴりぴりしている不思議な人でもあった。 「星詠さん、利用者さんの日課や課題についてどうだったか記入する記録があるので、記入してもらっていいですか? 書き方は、職員が、こういった支援を行って、こういう結果になりました。って書くと間違いないから。後で確認するので、全員分打ってみましょう。終わったら教えてくださいね。過去形で打つのを忘れずに。記録は過去の話になるので。」 「自分の所属棟だけでいいので、利用者さんの顔と名前は3日位で覚えて下さい。塗布薬や服薬時に間違えると生死に関わるので頑張りましょう。」 「夜勤者は色々と自分の仕事をやりたい人が多いし、星詠さんはまだ入りたてで暇だから夜勤業務は日勤でもやれるところまでやってあげてくださいね。 覚える練習にもなると思いますし。」 「お茶って、定時(起床後、食事時、喫茶時、入浴後、就寝前)に配るじゃないですか。少なくなったら残りを捨てて新しい飲み物を作って欲しいんです。両側のキッチンは出勤するちょっと前に確認して作っておくといいですよ。」 「午後活動が終わったら入浴になるじゃないですか。なので、午前活動が終わって昼食前の空いている時間に入浴準備を行って下さいね。そうすると、午後活動の人が楽ですから。」 「期日がある書類は、なるべく最初のうちに出せるようにしましょう。訂正や手直しは絶対入るんで、早めにやると班長が楽です。それと、翌月の準備は月半ばの空いている時に記録簿を全員分作って下さい。月末に楽なんで。」 これらは、入社初日の日勤(朝から入浴前まで)時にその先輩から教わったことだ。メモを取る暇が無いくらいあちこち連れ回され、仕事を頭に叩き込んでいく。 先輩の口癖は、暇なら仕事をしましょう。だったので、現在の、暇ならみんなゆっくり休もう。という雰囲気になったぬるい状態を見たら発狂するんじゃないかと思う。 その先輩も、私が2年目に入る頃には退社してしまった。資格をたくさんもっていた事もあり、転職してステップアップするのだと笑顔で退社していった。たくさんの人に慕われていた事もあり、惜しい人が辞めたものだ。 初日の話だが、記載しないが他にも細かい事をたくさん教わった。トイレ介助が必要な方の介助方法。歯磨きの仕上げのやり方。備品補充用の倉庫。その他業務に関する事を思いついた瞬間に教えてくる先輩だったので、メモが追い付かず何度か頭が混乱したが、声を掛けると待ってくれるのでそこはありがたかった。 ばたばたとした一日が終わる頃には、食事介助が必要な利用者さんと服薬がある利用者さんの名前は頭に入っていたし、流れも身体が覚えてくれた。 強いて言うなら、社員食堂などはなく、休憩室も特にない為、棟にある職員用の待機室で飲食を取る事が気になった。ゆっくりできないし、利用者さんが覗きに来るので食べにくさもある。 初日の勤務を終えて、食事を持っていく事は諦めた。利用者さんのトイレ対応の気配を感じながら食事を食べたり、排便の話を聞きながら食事を摂る事が出来なかったのだ。 入社して3年。 トイレ対応の声を聞きながらアイスを齧るくらいには、慣れてしまった。 しかし、この刑務所かなにかか。と思うような時間で縛られた生活にはなれる事が無い。 その結果、少しでも楽しくしたくて色々個別にやり始めて今に至る。 同時に、先輩が他の人はたくさん仕事がある。という言葉が離れない為、いまだに夜勤業務でも日勤者が実施できるところを実施したりもしてしまうのだが、そろそろ私も、仕事を抱える人になっているはず……?
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