ねこがいる。

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ねこがいる。

「ねえ、(みやび)覚えてる?あの話さー」 「んー?」  高校の漫画研究同好会、とは名ばかり。雅と恵那(えな)、二人だけの部室で漫画を読みながらだらだらと過ごすだけのこの時間。唐突に恵那がそんなことを言い出したので、雅は読んでいた漫画雑誌から顔を上げた。ミステリー漫画で、丁度名探偵が“犯人はあんただ!”をやった場面である。早く続きが読みたいのに――と思えば、おざなりな返事になるのも致し方ないことではあっただろう。  大体、恵那の話はいつも唐突過ぎる。あの話、と言われてもなんのこっちゃわからない。 「何、何の話?恵那が漫画大賞に応募しようとして、原稿用紙用意したところで力尽きた話?それともカワイイ弟君に早々にカノジョができてぐぬってる話?それとも英語で赤点取って留年しそうだって話ー?」 「やめて!?傷口に丁寧に塩塗り込まないで!?あたしは全部忘れたいんだからぁ!!」 「いや、他はとかく留年しそうな件は忘れたらあかんだろ……」  雅は呆れるしかない。自分も人のことが言えるほど成績がいいわけではないが、流石に恵那は勉強しなさすぎだと思うのだ。大して偏差値も高くないこの学校に、それでも頑張って入学したまではいい。しかし、合格したら勉強しなくていいです解放されますなんて話ではない。中学の頃から英語がヤバヤバだったというのなら、高校でも同じ轍を踏みかねないことくらい予想できそうなものである。  というか、自分としては不思議で仕方ない。“でぃす、いず、あ、ぺん?”とか言ってるような奴が一体どうやって高校に合格したのだろうか。 「どれも違うー!あれよ、麻沙美(まさみ)先輩が昨日言ってた話ー!この学校の七不思議の件!雅あんたオカルト研究会も兼部してんでしょ、なんか知らんの!?」  麻沙美先輩というのは、漫画研究同好会の三年生の先輩である。既に引退している身――ではあるのだが、時々受験の息抜きで部に顔を出してくれるのだ。現在この部の部員は、その引退した麻沙美先輩を除けば一年生の自分達二人だけである。もう一人以前は二年生の先輩がいたのだが、親の仕事の事情とやらで転校してしまっていなくなってしまったのだ。
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