サヨナラの日のイルメラ

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 ***  事の始まりは、私が十歳の時まで遡る。  私にとって、この世界は腐ったゴミ箱の中と大差なかった。赤ん坊の頃に、孤児院の前に捨てられていた子供が私である。  どうせ捨てるなら、もう少しマシな孤児院の前にしてほしかったものだと常々思う。  その場所は、慈善事業とは名ばかりの、人身売買の工場だったからだ。ある程度の年齢になった子供は“オークション”に出され、あるいは常連の富豪に差し出され売られることになる。見目の良い子供ならば、男であっても女であっても高値がついた。何でも、幼い美少女や美少年に性的欲求を感じる変態がこの世の中には多いらしい。  労働力として売られる少年少女ならばまだマシで、多くが変態の奴隷、酷いと人体実験のモルモット用に売られていくという事実を私は知っていた。施設に逃げ帰ってきた子供がいて、その子から何度か話を聴いたからである(まあ、逃げ帰って来たところで、その子に居場所などなかったわけだが)。 ――みんな嫌い、嫌い、大嫌い。  お金持ちの馬車が大通りを通っていくのを見るたび、綺麗な服を着た学生たちがお喋りをしながら通るたび、私の憎悪は募っていった。 ――たまたまお金持ちの家に生まれて、たまたま優しい家族がいたってだけで、あんた達はそんな風に綺麗な服とご馳走を毎日貰える!何で?私達には、そんな人生を選ぶ余地もなかってのに!  孤児院にあった本をかたっぱしから読んだこともあって、文字だけは読めたし多少なりの知識もあった。美人でもなく愛想もない私は、きっと人体実験の道具でもされて終わりだろう。いいことなど一つもなかった人生、何故最後まで誰かの玩具にされて終わらなければいけないのか。  私は孤児院の隅で埃をかぶっていた本を見つけ、その本の内容を真似して毎日儀式を行い続けた。魔方陣を描き、悪魔へ祈りを捧げたのである。 ――こんな命、どうなってもいい。だから悪魔、私の目の前に現れて。みんなみんな、皆殺しにして、世界を滅茶苦茶にして!  そう、だから。  いよいよ私が売られる為、馬車に乗せられた瞬間。馬車の目の前に舞い降りたその人を見て、私は。 「邪魔だ、轢き殺されてぇのか!」
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