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彼との永遠を
私の見る景色はこれまでと変わらない。
相変わらず、世界は人でごった返している。
彼が亡くなってから、私は能力が無くなっていないかを確かめるのが日課になった。
そして毎朝、部屋に彼が戻ってきていないかを確認する。
「…いない。」
これまでに亡くなった方が、どのタイミングで現れるのかを試す機会などなかったため、亡くなってすぐに彼が現れなくとも、それほど気にもとめていなかった。
お通夜が終わった頃かな、葬式が終わったらかな、火葬されてからかな、埋葬されてからかなと根気強く彼を待ったが、私の身近に彼が現れることはなかった。
念のため、入院していた病室や彼の実家にも訪れたが彼はそこにはいなかった。
四十九日が終わっても、彼は私の元には現れなかった。
彼が現れない。このことは私にとって大きな誤算だった。
若くして亡くなった彼は、心残りもたくさんあり、必ず姿を現すとなぜだか確信していたのだ。
私は彼を探しはじめた。
生前聞いていた行きたかった場所や思い出の場所、思いつく限りを探したがその場所のどこにも彼はいなかった。
霊達が知っているかもしれないと、恐る恐る尋ねたこともあったが、彼らのほとんどと意思の疎通はできなかった。
意思表示できる霊もいたが彼を知る霊はいなかった。
後悔がとめどなく押し寄せた。
生前の彼との貴重な時間を無駄にしかしていなかった。
死後の彼との生活にばかり思いをはせ、気もそぞろな応対ばかりをしていた。
何と軽薄で愚かな行為だったんだろう。
「こんな能力なんて無ければいいのに!」
そう強く願った。
翌朝目覚めると、疎ましかったはずの霊を見る能力すら私から消え失せていた。
完
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