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その部屋は、まるで住人の姿を表すかの様に、いつも清潔ですっきりと片付いていた。
ゴミや脱ぎっぱなしの服で足の踏み場が無い、自分の部屋とは全くの正反対だといつも思う。
大学生の自分が、会社員の浅科さんと恋人と呼び合える関係になってから数ヶ月。
朝は駅のホームで顔を合わせ、夜は浅科さんの部屋で夕飯を食べる。
それが毎日変わらない日常になっていた。
自分の為に用意される、温かくて美味い食事。俺の名を呼ぶ柔らかい声。優しい指先。
今まで丁寧に扱われた事が無かった俺にとって、何もかもが初めてだった。
いつにも増して気怠い週明け、月曜日の夜も、この部屋に来れば憂鬱が和らいだ。
「…っん、…」
夕飯の後、口数が少なくなって、ふいに唇に触れてきた熱に、思わず息が上がる。
覆い被さってくる、自分より広い肩に腕を回すと、二人分の重みでソファが鈍くきしんだ。
清潔なシャツの匂いがするのに、キスは舌先を絡め取る様にいやらしくて、どちらがこの人の本性なんだろうとぼんやり思う。
口元から顎を伝って、首筋、鎖骨へと熱い感触が移っていく。
身体が疼くー。
もっとして欲しいと言うかわりに、自分も相手の首筋に口付けた。
帰るまでの短い時間、このままずっと夜のままならいいと何度も思った。
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