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「ママー! お腹すいたー!」
「もうすぐ出来るから手を洗ってきて」
「はあい」
洗面所に走っていく我が子を見送り、フライパンの中身を確認する。見た目にはしっかり焼けているが、中身はどうか。竹串を刺してみる。小さな穴から出てくる肉汁は透明だ。大丈夫だろう。
焼けたものをフライ返しですくい上げ、レタスとプチトマトを添えた皿に乗せれば完成だ。白い皿の上に、新鮮な緑と鮮やかな赤、そして真ん中には野性的な茶色。まるで自分が素晴らしい絵を描き上げた画家になったような気分になる。
「お、今日はハンバーグか」
後ろからひょっこりと顔を出す夫に「そうよ」と自慢げに皿を見せる。
「俺の好物だ」
「わたしも好きだもん」
手を洗い終わったらしい娘が夫の足にしがみついてしっかり主張している。
「そうだな、一緒だな」
と夫が娘を抱き上げると同時に、皿を持っている妻の指の異変に気付いた。
「それ、どうしたんだ」
妻の人差し指には絆創膏が巻かれている。
「玉ねぎを切っているときにね、うっかり指を切っちゃったの」
「大丈夫か?」
「ママ、いたい?」
心配してくれる二人の様子に、指の痛みが少し和らぐ。
「大丈夫よ、ほかの指たちが一生懸命頑張ってくれたから」
「他の指?」
「あ、わたししってる。お父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんと赤ちゃんだ!」
「お父さんとお兄ちゃん……え?」
夫は不思議そうに妻と娘を交互に見比べる。
「聞いたことない? 親指がお父さん指、中指がお兄さん指、薬指がお姉さん指、小指が赤ちゃん指って」
「ああ、そういうことか。なるほど。じゃあ、この指とママは一緒だな」
「どういうこと?」
「ママも、怪我をしたお母さん指も、頑張ってハンバーグ作ってくれたってことだろう?」
「ふふ、そうね」
「ママとお母さん指にありがとうって言わなくちゃな」
「ありがとー!」
絆創膏をはった人差し指を娘がそっとなでてくれる。
その優しい動作が無性に嬉しい。
妻は皿をテーブルに置き、夫と娘をまるごと包みように抱きしめた。
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