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空っぽの頭を何とか動かして家に帰りつくと、ドアを開けた瞬間小さな話し声が聞こえた。同時に香ばしい香りが鼻腔を掠める。
明らかな違和感に、恐る恐る顔を出せばキッチンにその姿が見えた。
「うん。じゃあまたね」
常葉くんはそう言って、壁面に貼り付けたスマホを操作する。驚いてカウンターに回ると、そこには出来立ての料理が並んでいた。
「え、作ってくれてたの?」
「うん。豆苗また伸びてたから、かき揚げ。作り方母さんに聞いてて」
言われてポットを見れば、確かに青々としていたそれはざっくりと切られていた。
ぱちぱちと泡の弾ける音がカウンターキッチン越しに届く。
好きな人が、自分の為にしてくれる料理の音って世界一幸せな音色だと思う。
それにしても、香りと言いできばえといい、一瞬でお腹が鳴る。
そう言えばお昼ご飯ひと口も食べれていなかったな、と、今更その事実を思い出す。
「ひとつ、食べてもいい?」
「いいよ」
サクッと音を立てて口に含むと、豆苗の食感の中にコーンが弾けて、あまじょっぱい味付けが口内に広がった。
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