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「それよりさ、今度もつ鍋食べに行かない?」
カウンターで腕を組み、くりくりの二重を細めて身を乗り出すその人は「だめかな」と、今度は寂しげに俯く。
どうしてか、彼の髪色に似た黒くて毛並みの良い尻尾がお尻から垂れ下がる光景が浮かぶので「そうですね」と、持っていたボールペンを顎に寄せた。
「オーナー達と一緒だったら、考えようかな」
「え、本当に?」
今度はそれがピンと空を向くから、短く頷いた。
「でもまだ暑いし、少し涼しくなってからが良いな」
了解すれば、今度こそ彼の尻尾はブンブンと忙しなく揺れる。
もちろん尾が生えるはずもない。ただ、人懐っこい彼は私の事情も知って、良く、外に出ようと誘ってくれるのだ。
納品を確認し終えて控えを渡し、彼、椿新太くんを見送ろうとすれば、切れの悪い、如何にも古めかしいエンジンの音が遠くで呻き声をあげるように響いた。
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