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……ちょうど去年の晩夏。
私は当時勤めていた会社の先輩から、執拗なストーカー被害に遭って、精神的に随分と追い詰められていた。
優秀で人当たりの良い羊の皮をかぶった先輩を上司に相談しても折り合ってもらえず、鳴り響くスマホに鬱々とし、部屋に戻っても監視されている恐怖の毎日。
相談出来る人など周りに居なかった。
安心できるはずのアパートにも帰りたくもなく、彷徨っていた仕事帰りの夜道。この店の前を通りかかったのがきっかけだった。
『どうしたのお姉さん、彼氏とうまくいってない?』
余程この世の絶望を見た表情をしていたのだろう。
〝思わずあとから声をかけてしまった〟
後からそう聞かされてもおかしくないほど、憔悴しきった私を見て、菜々子さんは持ち前の明るい笑顔で手招きをした。
『そんな時は花でも見て、ほら。閉店間際だけど、拵えることはできるから』
ハキハキと喋る菜々子さんと、頷きながら、花束を作ってくれる信さん。
『気分が明るくなるでしょ?ね?』
花じゃなく、明るくなったのは菜々子さん達のお陰で、私の為に作ってくれた暖色で纏められた花束を見れば自然とポロポロ涙が零れて。つい、今までの経緯を打ち明けたのだ。
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