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1本目 向日葵
絵の具で空を描いた様な、青のコントラストが眩しい、夏。
店内から一歩外に出ただけで不快指数は急激に上がり、額にじっとりと汗が滲む。
大きめのノズルが付いたホースを手にし、ハンドルを捻れば、柔らかな水滴が踊るように溢れ出す。
太陽の光を浴びて虹色に輝く飛沫はやたらと楽しげで、花びらや葉っぱにそれが乗れば雫は宝石みたいに煌めく。
この時間が、私はたまらなく好きだ。
だけどこの時期路面の花達に注意をしないと、すぐに潤いを欲して分かりやすくくたびれてしまうから、たっぷりと丁寧に、なけなしの時間を使う。
自分にも水を与えたくなるのを何とか我慢して、煌めく水滴を浴びる花たちを眺めた。
……よし。十分かな。
ヒタ、ヒタ、葉から落ちた雫が床に落ちて、心地よいリズムを鳴らす。
「……みません、」
それを聴けば、いつだって鼻歌交じりになってしまう。
店内で気持ち良さそうにバケツの水浴びをしている切り花たちに、ちゃんとお迎えが来るように整列させていると、鼻歌も折り返し地点。
「すみませんっ」
二度、耳を過った声で、今この店内には私だけしかいない事実に気が付き、「っ、はい!」慌てて返事をするとグローブを取り、エプロンのポケットに乱雑に突っ込んだ。
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