9本目 かすみ草

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* あの撮影から1週間ほどが経った、今日。 「え、私のが?」 目の前には大輪のダリアをふんだんに使用した見事な花束がある。 これを三束、超特急で拵えていたところに“菫花ちゃんのに決まった“と、来店した卯月さんは嬉しそうに聞かせるから、思わず手が止まったのだ。 だけど、すぐに鷹よりも鋭い眼光の菜々子さんが睨みつけるので素早くテーブルに寝転んだかすみ草を手に取る。 「そ、それは、あれでしょ、先輩が圧力かけたんでしょう?」 「ちがうわよ〜。最終的にメーカーのお偉いさん達が話し合って決めたみたいよ」 ど、どんな写真を使われたのだろう…… 手元も話の行方も気になって仕方がない。 急ぎ足で仕上げると菜々子さんにオッケーをもらい「どのカットですか」慌てて詰め寄る。 肩を揺らす卯月さんに見せられたそれは、私の肩に顎を乗せて笑う彼の画像と、私の足を舐めているあれだ。どちらとも背を向けるアングルだったりで私の顔は完全に隠れている。 半月状の瞳がふっくらと程よく浮いた涙袋に乗って、薄い唇の端っこを優しく持ち上げ、憎たらしいほどに綺麗な笑顔を浮かべる画面越しの彼。lenn…いや、これは蓮聖先輩が強いな。
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