9本目 かすみ草

3/34
前へ
/326ページ
次へ
画面上の笑顔にすら釘付けになること約30秒。 待て待て。その前にこんな卑猥……もとい、恥ずかしい写真よりも別の写真があっただろうに。 ……違う、そもそもの問題はそこではない。 「り、りあらさんの方が、機材もカメラマンもセットも、モデルさんだってプロでしたよね?……私は……」 「プロが集まったからいい物が出来るとは限らないの。役者の内側を引き立たせることが出来なきゃただのゴミ」 卯月さんは暖かそうなコートのポケットにスマホを仕舞うと、こう続けた。 「菫花ちゃんの隣が、あいつにとって一番ってこと」 そっか。 その一言が今の私にはとてつもなく嬉しくて、ほくほくとカイロであっためられた言葉のように感じる。 だから、温められた心で「でも」小さく口を開く。 「今度からは、本当にお断りします」 「えぇ!?どうして!?」 ……だって、 そろそろ本格的に"そのシーン"に慣れないといけない。 それに……二度も、形に残るものを作り出してくれた。十分だ。 「なんででもです。ありがとうございます」 全部こころの中に押し込めて、笑顔を乗せる。
/326ページ

最初のコメントを投稿しよう!

614人が本棚に入れています
本棚に追加