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「菫花、本格的にあの男に毒されてきてない?」
ぱきりとよく通る声が、耳を突き抜ける。
なのでうろうろと目線を天井からぶら下がる、くすんだ色のドライフラワーへと移し「そ、そんなこと…」言葉を濁した。
「自分の家には帰ってるの?」
しかし、菜々子さんは私を逃がさない。
「か、帰りますよ……週に…三回くらいは…」
尻すぼみになりながらも正直に告げる。だけど居心地が悪くて指先のささくれをもじもじと擦り合わせ困ったふうに見上げる。視線の先にいる菜々子さんは、はぁ、小さなため息とともに、静かに口を開いた。
「撮られないようにしなよ?」
「はい、それはもちろん気をつけています」
週に一回だったのが、週に二回となり、三回、先週は確かに先輩の家に居た方が多かった。こんなに頻繁に逢瀬を繰り返していれば、普通の人だって勘違いしてしまう。気が、緩みそうになる。
なのに、昨日、一昨日と会って居ないから、今日はすごく会いたいって浅ましくも思ってしまう。
前は、五年。二ヶ月、二週間会わなくても大丈夫だったのに、今はもう二日も持たないなんて、割りと重症だ。
私の心の容量はどんどん小さくなっている。それか、彼の存在が大きくなりすぎて圧迫しているのか。
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