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やがて「またくるね」爽やかな笑顔を置き土産に卯月さんは退店するのでその背中を見送る。
「制限多そうだけどね。楽しいなら何よりだよ」
「……はい。楽しいは、楽しいです」
腕を組んでニヒルに笑う菜々子さんと、私の顔を交互させた潮さんは「制限?なんの事?と」不思議そうに口を尖らせた。
「な、なんでもないです……」
だけどその何気ない言葉に、身体へ必死で否定を乗せて、視線を足元のスニーカーに移動させる。
先輩の足枷になっちゃダメだ。迷惑だけは掛けたくない。会えるのは家の中だけで十分。
心の中で唱える呪文は、先輩と肌を重ねたあの日からずっと変わることは無い。
外食も一度連れられたあのプライバシーをがっちりと守られた料亭に通っている。親族のお店らしいから、あのお店は前から良く利用しているみたい。
限られた時間と、限られた場所。太陽の下では満足に出歩くことも出来ない。
それを含んだように、先輩は少しだけ悲しそうに笑う時がある。
"堂々と迎えに行けない"
あの時の理由が徐々に身体に染み込む。でも、来るな、会えない、拒絶はされたことは一度たりとも無い。
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