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だけど、確か先輩こないだ何か言ってたなぁ、と、そんなに古くも無い記憶を掘り起こす。
『そろそろ長期ロケが入りそう』
そうだ、お家でご飯を食べたあと。先輩は意外と料理が上手で、カルボナーラを作ってくれた。それがびっくりするほど美味しくて胸は幸せで満たされたのに、急に暫く会えないって事を聞かされて少し寂しくなった。
でも、そのほんの少しの寂しさに気づいて欲しくなくて、テーブルの上に置き去りにされた台本を手に取った。
「そ、そっか。この映画の撮影?」
「いや、別の。アクションシーン多いから、アザ増えそう」
「だったら、湿布とかテーピング多めに持っていかなきゃ駄目だよ。先輩、フィジカルは良いけど柔軟は苦手だから」
ね?と念を押せば、先輩は表情を凍らせまま、無言で私を見つめていた。
「……どうしたの?」
「いや、昔の……マネージャー思い出した」
なんて、少し嬉しそうにはにかんだ笑顔を彼はくれるから、単純な私の心臓はさっきまで寂しかったはずなのに、すぐにきゅんと高鳴り「つ、つい……」と、狼狽えてしまった。
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