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「あ、そろそろあがっていいわよ、菫花」
時計が18時を示した頃、菜々子さんが言うのでエプロンを紐解き帰り支度を始める。
「今からデート?」
菜々子さんはにやにやと企んだように口角を上げるので、違いますよ、と、首を横に振る。
「晩ご飯の買い物に行く前に、新太くんと少し会ってきます」
「坊?」
「はい。渡したいものがあるって言われたので」
防犯ブザーのことかな、別に、いいのになぁ。
律儀に守ろうとしてくれる新太くんの優しさに心が温まる。
でも、配達の時でも良かったのにな。
少し謎は残るけれど、とにかく連絡をいれる。
「それ、あの男は知ってるの?」
「いいえ、少し会う程度なので、いいかなぁと。あ、半には待ち合わせているので、いきますね」
「菫花、一応、ちゃんと言っておきなさい。わかった?」
念を押す菜々子さんの言葉に「わかりました」と頷いて、職場を後にした。
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