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バスに揺られつつ、スマホに指を乗せた。
“今から、新太くんと“
何気ないひと言を打つ指は、新着のメッセージのアナウンスに邪魔をされてしまう。
“今日、打ち合わせ兼ねて外で食べてくる“
……そうなんだ。
途中までの文章を消して、“わかりました“了承の旨を送信する。画面側をスカートに置いて、重く、誰にも聞こえないため息を一つこぼすと本来の用事を思い出した。
“今から新太くんと少し会ってきますね“
先ほど送った文章に、まだ既読は付いてはいないから、いつもの通り時間ができた頃連絡を入れてくれるだろう。
待ち合わせをしたカフェに新太くんは既に到着していた。寒いから中に入ってて、と言ったのに外で待っていてくれるから、急いで駆け寄る。
「ごめんね、お待たせ」
「全然平気です」
「中で待っててくれて良かったのに」
「菫花さんが来るの、ここから見ていたかったんで」
口元までマフラーで隠す新太くんの鼻は少し赤らんでいた。
待ち合わせの時間より早いけど、恐らく、少し前から待っていてくれたのだろう。
「…時間、そんなないんですよね。行きましょうか」
「あ、それが、時間出来ちゃった」
「そうなんですか?じゃあ、飯食べます?」
「うん」
少しの申し訳なさから頷くと、新太くんはすぐにしわくちゃの笑顔を零してくれた。
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