438人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
新太くんと一緒に入ったのは近場の居酒屋だった。個室があるタイプだから迷うことなくそちらへ向かってくれた。私に気を遣ってくれているのだろう。
だけど、最近はそんなに気を張ることなく生活出来ている。男性のお客様とも、緊張せずに対応出来るようになった。
徐々に、だけど確実に私の身体は変われている。いつも、腫れ物に触れるように声を掛けてくれる新太くんや、信さん、それから先輩が"怖くない"って教えてくれているおかげなんだろうな。
「鍋にしましょう」と、彼は言うので「良いよ」と、頷く。そんなに鍋物が好きなのかな。なんて、タブレット端末で注文を取ってくれる姿を見ながら、彼の嗜好に予想を立ててみる。
「菫花さん、お酒どうします?」
「んー、私、弱いから止めておく」
「一杯くらい良くないですか?俺、送っていきますよ」
「そっか、じゃあ一杯だけ」
優しい言葉に、甘えさせてもらうと、しばらくして空っぽのテーブルが料理で埋まっていく。簡単に乾杯をして、アルコールで喉を潤した。
月に一杯程度嗜むくらいなので、ひと口だけですぐに脳の奥まで熱が通う心地がした。
馴染みの料理に舌鼓を打ち他愛のない話をしていると、当初の話題を思い出す。
「それより、渡したいものって何だったの?」
「あ、それが、車に忘れちゃって。今から取ってきますね」
「急かしてるわけじゃないから、全然平気」
そうですか、と、安心したように新太くんは安堵を浮かべる。
最初のコメントを投稿しよう!