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テーブルに乗せていたスマホが震えた。メッセージではなく、着信だったので「ごめん、お手洗い行ってくるね」そう告げて立ち上がる。
目的地付近で緑色へとスライドさせて、耳に当てるとすぐに『どこいるの』と、少しばかり焦ったような声が聞こえた。
「え、どこって……ご飯食べてるよ」
『だから、どこで?』
「え、と……」
トイレ内にある貼り紙を見つけて、店名を告げる。すると、『食べ終わったらすぐに出て、迎えに来る』なんて言うから「仕事中でしょ?送って貰うから……」言いかけて、やめた。
そうだ、成り行きとはいえ、男の人と一緒だ。
中性的で、気持ちをまるくしてくれる新太くんだから安心しきったけど、一応、新太くんは私に想いを寄せてくれている。
自分の置かれた立場を理解して、アルコールで侵略されかけた脳みそで必死で考えた。
「あ、の……すぐに帰る。それで……帰りついた頃電話するね」
『菫花』
紡ぎかけた言葉の奥で、lenn、早く、と、彼を呼ぶ声が聞こえた。やはりまだ仕事中なのだろう。
「もうすぐ出るから、心配しないで?じゃあ、後でね」
言って、すぐに電話を切ると頬をパチンと叩いた。
何やってるんだ。菜々子さんがあれだけ連絡入れろって言った意味が今更分かって、情けない心が泣きそうになる。
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